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木を生かす 木を育てる

山のために建築関係者は今何をすべきか

大阪府八尾市/水上建設㈱ 水上克俊

●1・出会い私は大阪府八尾市で工務店を営んでいます。
7年くらい前から関西自然住宅ネットワークという会に所属し、「地球環境・地域環境そして室内環境を悪化させず自然と共生してゆけるような住宅」をめざして勉強し、木造住宅を中心に家づくりに取り組んでいます。
こんな大きな目標を掲げている会で勉強を続けていますから、木造住宅には当然のごとく国産材を使い、しかも産直木材で、その産地には継続して植林をする、桧や松より強度が劣る杉を構造材として使うこと、植林した木が使えるようになる60年以上の耐久性があることが私の家づくりの条件となっています。

10年くらい前から、大阪天王寺一心寺の古くなった念仏堂をゆずり受け、京都の美山町北村へ移築すべく滋賀の沙羅設計山田さんを中心に楽しい仲間たちと週末ごとに通いお堂を造りつづけています(写真-1)。
ここでは衣食住の伝承文化を見直そうと家づくり(土壁塗り)・織り・畑仕事などのワークショップを行っています。
そんな中で、美山町在住で京都森林学校の草地さんの紹介で小林さん(小林林業)との出会いがありました。
私の家づくり話に小林さんは感動され、それから小林さんの山へちょくちょく足を運ばせてもらい、お堂のワークショップとして山仕事をさせてもらったりしておりました。
●2・産直木材立ち上がる低迷している原木市場に木を出荷しても全く採算が合わないので、ここ何年か伐採をしていなかった小林さんが1昨年の秋、突然「水上さんこの夏、僕の山300立方・伐って葉枯らししてある、力貸してくれ・・・・」といわれ、私はうろたえました。
年間2・3棟程度しか建てていない水上建設が10棟分近い木材を何とかしろといわれても困る(写真-2)。

ここで「ええ格好しー、でお人好しの私」を出してしまったら取り返しのつかないことになると思い、私は「そういわれても・・・・」とあまり協力的でない返事をしたのです。
その時の「そうか」・・・ガクッとうなだれた小林さんの表情は今も忘れられません。
今までに徳島TSウッドハウス協同組合や、秋田のモクネット21の杉を使った家づくりをしている私の話を、「ええ話やなあ、力湧いてくるなあ」と聞いてくれた林業家が、小林さん以外にいたのか、小林さんだけじゃないか、と私は自分に問い掛けました。
そして何日か後小林さんに電話をしたのが始まりです。
小林さんの山から木を出し、小林製材(小林直人さんの親戚)で製材・棧積み乾燥し(写真-3)、水上が大阪の窓口事務所となり、木材を供給する山から里・町への産直ルートができたのです。

ともいきの杉は、低迷している日本の林業が少しでも元気を回復してほしい、山が本来の機能を回復してほしいと願って実践活動しています。
産直木材といえばモクネット21やTSウッドハウス協同組合といった先駆者はいますが、彼らとは異なる点がいくつかあります。
1つは美山町の杉は歴史が浅いこと、日本の植林地、殆どがそうなのですが戦後初めて植林されたということです。
それまでは雑木林であり大方が炭焼きをしていました。
それと秋田杉や徳島木頭杉などのいわゆるブランドイメージがないことです従ってこれという育林方法が確立されていませんでした。
これが、いわゆる戦後植林された日本の殆どの山の状況なのです。

しかし、そこはやはり植林する限りはいいものを育てたいですから、その当時はしっかりと手入れをしていて今や用材として充分なものに育っています。

そんな日本国中の植林された、杉を見捨ててしまってよいのでしょうか。
何でこんなことになってしまったか、一般の材木屋さんや工務店や設計事務所や消費者のせいではないとは言い切れません。
逆にこの人たちが山に目を向けてくれて、山の林業の現状を知ってくれて、日本の国土を守ろうと考えてくれるなら変わることができる。
文化論、情熱論で訴える人たちがいます、それもよいでしょう。
私は少し違います言うばっかりになってしまった世の中が好きではありません。
●3・林業活性化のためには里山を守ろうとする運動はたくさんあります。
人間が自然と触れあう喜びと小動物が生きてゆける環境が残せて大変よいことです。
しかしボランティアでは日本の植林は継続してはゆけません。
一般的にボランティアとは、公共福祉のため多くは無報酬で自主的に活動する人となっています。
広葉樹林、雑木林を保護しようと言う運動があります、よいことだと思います。
針葉樹林の植林地帯が原因で保水力がなくなり、崖崩れが起きたり、平時の川の水量が減り、大雨時に洪水が出たり、動物たちが生活する場が減り、里に動物が下りてきて畑を荒らす。
これは植林地の手入れが行き届いていないがために起こっていることです針葉樹の植林がいけないのではありません。
山の手入れもできないほど日本の林業を目先の利潤を追求する市場が、国が、駄目にしてしまったことが原因だと思うのです。
こんなに低迷してしまった林業、こんなに荒れてしまった日本の山をいわゆるボランティアではどうすることもできない、やはり社会的経営基盤にのる事によって活性化すると思うのです。
皆が日本の木を適正な価格で使ってくれて、林家に還元できれば山は自然と生まれ変われるのです。
今の消費者は木材を買うために、山側に十分に還元できるだけのお金を使っているにも関わらず、林家に還元できていない。
アフガンやアフリカ難民支援がその地域の人たちに届かないのと何も変わらない。
これまでの林業のために私たちの税金を使い育てた木を、高く買わされ、しかもそれが林家に還元されずに山が荒れて一部のブローカーが儲けていていいのですか。
(写真-6)

ほんとのボランティアとは、林業がきちんと営めるように林家に還元できる価格で消費者が木を買ってくれることにより、林家・製材所はその材を責任持って供給し、山の自然や動物を守り、その森林資源が酸素を供給し、河川に適切な水量を保つことができて川下の水源地としての責任を果たすこと。
水をめぐる責任の始まりは、農業・漁業すべてに循環される山からなのです。
このサイクルがきちんと機能するため日々努力を惜しまず、自分の生活、周りの人たちの生活を守り暮らすことがほんとの責任ある仕事であり、これがほんとのボランティアであり、共生の道と考えます。
●4・これからの木造住宅とは1昨年品質確保促進法が制定され、木材の乾燥を重視し、人工乾燥をすることにより、自然の素材を均一性のある加工された建材と同じような扱いをしようとしています。
これは大変おかしなことです。
自然の営みを忘れてしまった利潤追求型大量生産一辺倒の経営者たちには仕方がないのかもしれません。
高気密・高断熱の家を追求するためには、均一性のある建材を必要とするのはわかりますが、日本国中すべての建物をそうする必要があるとは思いません。
その地域にあった家づくりがあり、必ずしも高気密・高断熱にしなくとも省エネルギーの家づくりはできます。
わたしは断熱や、暖房方法を工夫することにより関西地域型の、省エネルギーで快適な開放型住宅を供給しています。
造り手の工夫により自然乾燥の木材を使い、無駄なエネルギーを必要とする人工乾燥木材の使用を減らすことができます。
自然素材で出来た家を求めるユーザーが増えてきています。
住宅メーカーも「木の家づくりをしています」と触れ込みをします。
しかしそれは本当に自然に触れることの出来る家なのでしょうか、多分違うと思うのです。
自然の素材というものは、身勝手なもので、反り・割れ・痩せがおこります。
長年自然の中で風・雨にさらされて耐えてきたわけですから癖があって当たり前です。
人間も「無くて7癖」といいます。
ユーザーは「木目がやさしい・リラックスする」と言い、とにかく無垢の木を好みますこれはゆらゆらとしたいいかげんな、予測が出来そうで予測の出来ない木目模様に人間は心地よさを感じるからだそうです。
それと同じように、予測の出来ない少々の割れや反りや痩せは、年数が経つにつれ味わいとなってくるものなのですが、ここのところをなかなか判ってくれないのです。
ユーザーも造り手(設計者・工務店・職人さん)も、もう少し大らかな気持ちをもたないと自然の素材での家づくりは出来ません。
ついつい木目の通った上物ばかりを使うようになりコストが高くなるのです。
では自然素材の家づくりにはどれ位のコストがかかるのでしょうか、坪当たりの単価は工事内容をどこまで含むか、建物の大きさ・形(吹抜け・平面プランが凹凸)などにより変わってきます。
ここでは一般的な建物として捕らえていただきたいのですが、うまく工夫し、機器類に必要以上の機能を望まなければ60万円/坪(設計費別)を割ることも可能です(写真-7)。

●5・見える家づくり集団私は関西自然住宅ネットワークにおいて多くの仲間たちとシックハウス問題や建築に関わる環境問題を勉強し、情報交換やセミナーなどの啓発活動も行ってきました。
しかし我が国の住宅に大きな影響を与えると予想される品確法において、シックハウス問題に関するレベルは低く、対応が急がれる国内の森林資源活用などの環境問題解決に逆行する可能性すら含んでいると感じています。
品確法は我が国の住宅の全体的な品質を向上させることになるでしょうし、省エネ住宅も部分的には環境問題の解決に寄与するでしょう。
しかし、世間がその表面的な部分だけに注目し、本質的な問題から意識が離れてしまうことをさけなければなりません。
自分の仕事のためだけでなく、共に勉強を重ねてきた仲間たちともう少し広く、私たちの考える家づくりを皆さんに紹介し、実際の住宅を供給していく集まりが必要であると思い、1昨年秋、炭と環境社の野池さんを中心に設計事務所6社・工務店4社が集まり、「見える家づくり集団」を立ち上げました。
もちろん水上建設もその1員です。
まずメンバーが造る家の内容を書いた冊子(1年半の時間を掛けました)を作りました。
施主にはその冊子を読んでいただき、メンバーが考えている「まっとうな家づくり」を理解してもらいます。
これは家を建てようと考えている人にはぜひとも読んでいただきたい冊子です。
メンバーがやろうとしているすべてを公開していますし、上記のような問題解決に真正面から取り組んでいます。
つくる住宅の3本の柱を「健康・環境・丈夫な家づくり」とし、この3本の柱を実現する内容を明確にして、そのレベルをかなり高いところに設定し、特に国産材の活用については、非常に積極的に取り組み国産材率80%以上を条件としています。
見える家づくり集団はできるだけ環境に負荷を与えず、必要な性能を持った家が少しでも増えることを願い活動を続けています。
設計者ではなく、工務店が産直木材の供給に直接関わるのは少し変に思われるかもしれませんが、森林資源の果たしてくれる様々な役割と、小林さんと出会えた機会を大切に、美山「ともいきの杉」供給に取り組んでいこうと思っています。
日本の森林資源を守り、まっとうな家づくりを推進するには、ひとりの力ではどうにもなりません。
これまでに出会った各地の産直グループや、全国にひろがる自然住宅ネットワークの家づくりの仲間と共に、大きな力となれるようこれからも精一杯活動を続けたいと思っています。


水上建設株式会社

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