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木を生かす木を育てる

「杉の家」からのメッセージ

  

文化を伝承し国産材で長寿命な家

  

神戸市/KAN設計事務所 高谷敏正

 

  
古い民家の住宅を増改築して、杉材づくしの家を建てたKAN設計事務所の高谷敏正さんが、兵庫県加古川市に、杉をふんだんに使った家を完成させ、見学セミナーを開催した。「<杉の家>見学セミナー」と題され、参加した三十数名が見学すると共に,杉の家のリビングで、この家に使われている杉材を供給した徳島県TSウッドハウス協同組合の三枝直芳さんが徳島から駆けつけ「杉の話」を、高谷さんからは建物の説明を聞いた。今回建てられた家は、古くなった民家を取り壊し新築することになったもの。周りには古くからの民家も多く、同じ敷地には民家の別棟があることから、外観は周りの風景となじむように日本の伝統的なデザインを取り入れ,落ちいついた印象を持たせたものである。日本文化の伝承を考えた木造伝統工法の二階建てで、一階は、八畳、六畳の二間つづき間の和室とリビングを中心に、キッチン、風呂、トイレなどの水廻りが、二階には杉につつまれた三つの部屋とクローゼットがつくられている。この家には家族五人が住むことになっている。スペースが広いので,ゆったりと伸び伸び暮らせるだろうと感じられる。   
●木の家づくりで山を育てたい土台が青森ヒバで、それ以外の構造材、床、壁、天井の板材、備え付けの棚などの家具はすべて杉でつくられている。部屋に入ると杉につつまれ圧倒させられるとともに、とても落ちつき、木につつまれることの心地良さを存分に感じさせてくれる。使用している杉は、すべて徳島産でTSウッドハウスのもので、三枝さんが見学者に杉を輪切りにした実物を示しながら、杉の説明を行ってくれた。それによると、TSウッドハウスの杉は、樹齢60年~80年のものを使用し、切ったものは、その場で約3~4ヶ月葉枯らし乾燥をしてから、製材する。さらにその後3~4ヶ月ストックヤードで桟積み天然乾燥を行っているので、色艶が良く、割れ狂い、反りの少ない高品質なものである。また、熱圧ローラー処理を行い、組織を破壊することなく、米糠拭き仕上げ状態を実現。熱圧処理によって、表面が高密度になり、樹脂分が均一に分散、適度の光沢がでて色調が深まり、手垢がつきにくく、表面が固くなり傷がつきにくく、磨耗が少ないなどの特徴がある。これらはすべて化学物質を一切使わず実現しているので、ムク材をより快適につかうことができるものである。「徳島産の杉は、一時期、高速道路の工事などで足場材としてたくさん使われていました。しかし、先祖が植えて育ててくれたものが、その様に使われているのを憂い、7年前にTSウッドハウスをつくりました。供給システムをつくり、そこから家づくりに使ってもらうようになりました」と三枝さんは言う。山が荒れる、国産材が使われないなどの木材を取り巻く問題の原因の一つに、技を持った人が少なくなってきたこともあると三枝さんは言う。葉枯らしをする時に、穂の方を山側にきちんと倒す、製材する時に、芯をきちんと真中に持ってくるなど山元製材、そして、それをつかう大工と、どこからも技が少なくなりつつあることに木を扱いきれなくなっていることがあるようだと話す。   
これに応えるように国産材を使おうというのが高谷さんである。使わなければ問題は解決しないと考え、天然乾燥された国産の杉材をすべての梁や柱に使い、板材としてもふんだんに使っている。杉の家の良さを追求すると同時に、日本の林業の活性化につなげたいとの想いが強くある。
●自然素材と自然エネルギーの家80年以上かけて育った木を使って家を建てるのだから、長寿命の家にしなければならない。そうすれば木材資源の循環ができ、持続可能な循環型社会づくりに貢献することができる。そのような考えをもって高谷さんは家を建てている。    80年、100年と家を持たせるために、真壁で柱、梁の見える構造としている。湿気がこもらず、柱、梁が呼吸が出来る。もし傷んだ場合でも、早期に発見でき、取り替えが容易に行える。設備類はメンテナンスや取り替えが容易に行える様に設置し、傷みが早い浴室の上には2階を乗せずに、後々、手を入れやすくしている。
     
家の寿命は、建て方ももちろん大事だが、住む人が家とどう付き合うかでも決まる高谷さんは住む人が手入れをしやすいように工夫をする。   
住む人の健康への配慮が行き届いた家で、自然素材にこだわり、居心地の良い空間となっている。壁には土壁を使用し、そこに珪藻土、和紙などをつかっている。調湿効果や光をやんわり反射してくれるなど、心地良い効果を発揮する。新建材を使用していないので、シックハウスの心配もない。和室の襖には、京唐紙が使われている。これは木版を使い、手刷りでつくられたもので、画一的な工業製品とは違い、味のあるものとなっている。部屋を細かく仕切ることなく、オープンな間取りで、どこにいても家族の気配が感じられるようにしてある。部屋数を多くすることより、各室を広くすることでゆとりが感じられる。
  
1階は、和室の襖を開けると、リビング、ダイニング、キッチンへとつながり約30畳のワンルームとなる。リビングに座ると、杉の床の肌ざわりが心地良く、珪藻土の白い色と杉の色合いが目に映え、吹き抜けのある広い空間がリラックスさせてくれとても気持ちが良い。屋内と屋外を隔てすぎないのも心地良い空間づくりの条件と考え、縁側、ウッドテラス、広いバルコニーをつくり、外とのつながりを良くしている。玄関と勝手口だけを出入口にするのではなく、縁側、テラスなどからも出入りできる。自然と対峙するのではなく、上手く付き合うことで、住みやすい空間をつくっている。風通しを良くすることで空調を使わなくても自然の涼風で心地良さを得、光をたくさん取り入れるようにしてあるので、昼間は照明も不要となる。目を覚ました時や、朝ご飯の時に明るい太陽の光を浴びるだけで、なんとなく元気になる。ほんのささいなことだけれどそんな小さな事の積み重ねが大事だと高谷さんは考える。そこには、自然のエネルギーを有効に取り入れることで、自然と共生した健康づくりの思想と、エネルギー対策への視点がある。環境負荷の軽減に一役かっているのが、ソーラーシステムで、太陽の熱を利用して暖房、給湯を行うシステムを取り入れている。1日の疲れを癒してくれる浴室からは坪庭が見えるようになっていて、心身共に癒してくれる場所となっている。収納もすべて杉板でつくられ、また、襖を取り外した時にいれておく収納スペースも設けられ、細かい所まで住みやすさを考えた家である。人に優しい家をつくれば、同時に自然にも負荷の少ない家になる。機能を追い求めていた時代には、いつのまにか自然と対峙する形になってしまっていたが、それは、結局人にも自然にも優しくない住宅になっていた。今回の取材で、住宅が自然の循環の中に入れば、今までの問題が解消されているように感じることができ、このような、住宅が一軒ずつ増えていくことが、重要なのだなと感じさせられる取材だった。
  
KAN設計事務所

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