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木の家づくり・各地の動き


安土町に建つヨシをテーマにした家の外観。

漆喰の壁と焼き杉板が美しく目に映える。

滋賀県安土町/葭留・竹田 勝博  ㈱安土建築工房・西澤 由男
●ヨシの需要喚起を目指して 滋賀県安土町で、ヨシをテーマにした木の家がつくられた。
代々、ヨシ屋を営む竹田勝博さんが、東京に住む息子夫婦のために建てたのがこの家である。
しかし、建てるにしてもただ普通に建てただけでは面白くないと考え、ヨシをテーマにした家を建てることになった。
 竹田さんは長年、ヨシ屋として、屋根の葺き替えなどをしてきた。
しかし、時代の変化と共にヨシ葺き屋根の家も年々減少してくる中、なんとかして新しい需要を作り出せないものかと日々考えていた。
ヨシ葺き屋根も減少したが、職人も少なくなったことで仕事が増え、竹田さんは忙しい毎日を送っている。
 その合間をぬって、ヨシを使った新商品の開発を行っていた。
ヨシを使ったテントなども作ってみたが、いまひとつ良い反応を得ることができなかった。
そこで、住宅にどれくらい利用できるのかが、この家づくりの中で試みられることになった。
 設計・施工したのは㈱安土建築工房の西澤由男さん。
西澤さんは、安土町で、木・土・紙という自然素材を生かした建築に取り組んでいる。
2人は異業種交流会で知り合い、その後も環境セミナーで、ドイツ・スイスを一緒に回る中で、環境に対する・考え、住まいに対する考えが一致し、今回の家づくりとつながっていった。
 この家の最大の特長は、壁・屋根にふんだんにヨシが使われているところである。
壁は土壁で、本来なら竹を使って小舞が作られている部分を、すべてヨシを使っている。
ヨシは中空になっているので、断熱効果も竹より高いはずと考え、使用することになった。
強度の面でも、ヨシは1本ではたいした強度はないが、束にすることで、十分な強度を得られることになるので、ここでは7~8本で1束にしている。
 初めての試みとあって、壁の収縮率、塗り厚などさまざまな実験、試行錯誤を繰り返した結果、ヨシ小舞の厚みは80㎜が最適との結論を得た。
 屋根には、野地板の下に断熱用にヨシが使用されている。
防火の問題で、外に出る部分にはヨシを使えず、ヨシ葺き屋根はもう住宅地には建てることは出来ないが、このように内部に使用することで、100%とはいかないまでも、ヨシ葺き屋根の持つ、吸湿・断熱などの素晴らしい効果を得ることができる。
 屋根・壁ともにヨシが使われている部分は竹田さん自身が作業をした。
内壁の一部の板が外れるようにしてあり小舞のヨシが見ることができる。
天井も一部ガラス張りにして、断熱用のヨシを見る事が出来るようにしてあり、見学に訪れる人も多いという。
 この家は、木造伝統工法で建てられており、外観は純和風の姿をしていて、漆喰の壁と、焼きスギ板の貼られている壁とのコントラストが美しい。
 内部は、玄関を入ると階段が目の前にあり、階段を挟んで、1階にはダイニングキッチンと和室が、2階には10畳の2つの洋室が作られている。
柱・床にはヒノキが使われていて、無公害の植物性のワックスが塗られている。
1階和室の壁は珪藻土入り聚楽壁となっていて、構造梁も現わしで、見た目にも美しく、心が和む。
襖にはヨシをすき込んで作った紙が使われている。
その他にもランプシェード、天井の一部など内装の至るところに、ヨシが使われている。
 階段の北側に玄関、南側(階段の裏手になるところ)は1段下がったサンルームとなる。
玄関とサンルームはどちらも戸を開けると和室・ダイニングキッチンとつながるようにしてあり、風が家全体を流れる作りとなっている。
 玄関・サンルームともに吹き抜けにしているので、家の縦方向にも風が流れる仕組みとなっている。
「風は温度差で起るものです。
機械的な仕組みを設けなくても、作り方によって自然と風は流れます」と西澤さんは言う。
 床下に風を呼び込む入口は格子状の無双窓になっていて、季節により開閉する事によって、床下の湿気・温度を調節できるよう工夫が施されている。
その他にも、スギ板貼りの笠木の下にスリットが入れられていて、下部に設けられた空気採り入れ口から空気が入り、スリットから出ることで、壁の熱を逃がす工夫も施されている。

天井を一部ガラス張りにして、ヨシの使用部分を見ることが出来る。
天井下の無双窓が挌子状に見える。

1階和室。
襖にはヨシをすき込んで作られた紙が使用されている。
1階ダイニングキッチン。
漆喰の壁とヒノキの腰板で飾られた部屋。
窓の外に見える柵もヨシで作られている。

壁の一部を外すことが出来るようにしてあり、ヨシの小舞を見る事が出来る。

構造の状態。
小舞と屋根にふんだんにヨシが使われている。柱と梁の接合部分には込み柱が使用されている。

床下の空気採り入れ口。 挌子状の無双窓になっていて、開閉することが出来る。
サンルームの暖まった空気を調節するため、手すり上部にガラス戸を入れて開閉できるようにした窓。窓の向こう側がサンルーム。
●日本本来の自然素材住宅 西澤さんは100%自然素材の家にこだわる。
だから機械的な仕組みも使いたくない。
自然に流れる風の心地良さを知っているからである。
西澤さんは環境セミナーでヨーロッパに行った時に、そこの生活に興味を持って、実際にドイツに1年間住んだことがある。
「そこの暮らしは、知らない暮らしではなかった。
日本にも昔はあった、もったいないから捨てるなという考え方の暮らしでした。
日本に帰ったらそういう暮らしを知っている人が残っているうちに、少しでも多くの人に伝えようと思った」という。
 ドイツにエコロジー住宅団地があって、近年それを訪れる日本人は多いのだが、その住宅を設計した建築家が言うには、「わざわざ日本から視察にこられるが、我々は、日本の伝統的な自然を取り込んだ民家を手本としている」ということだったという。
日本には良い物が沢山あるのに、その価値に気づかずいつのまにか捨ててしまっていたようである。
 100%自然素材を使っているからこそ心からのびのびとくつろぐことができる家である。
「どこかに一部でも化学物質が使われていると、気持ち的にもくつろぐことができません。
現在、一般的になっている、建材を多用した住宅では、一緒に美しく年をとることはできません。
自然素材を使った家は、一緒に年を重ねる事が出来て、その価値もどんどん上がります。
家は住むだけの箱ではありません。
精神的な拠り所となる場所です。
その家で育った人が、私の根っ子はあの家にあると言える家でなくてはなりません。
そう考えると、住まいというものを簡単には考えられません」と西澤さんの家づくりに対しての強い考えがある。
 滋賀県には幸にもまだ左官などの職人さんも残っていることで、このような土壁の家も安価に作ることができた。
しかし、全国的に見れば職人さんも減少しており現代のライフサイクルの中では土壁を施工する余裕もなくなってしまっているのが現実である。
そしてその余裕のなさが、根っ子となれる家をつくれなくしている 竹田さんは言う「建材は、断熱材なら断熱だけというように、それ一つの役目しか果たさない。
ヨシなら、断熱もできるし調湿もできるというように、自然素材には様々な役割を同時に担える特性がある。
日本人は、何百年もの間、豊かな四季を活かした素晴らしい文化を築き上げてきた。
しかし近年、新しい建材や技術ばかりに目を奪われて、気候や風土に合った伝統技術や暮らしの知恵をあまりにもおろそかにしている。
そうなった今、このままでは、次の世代にこの繊細で麗しい本来の日本の文化を伝え残すことができないのではないか」という。
 自然素材だけで作られた家は、最後も自然に帰ることができる。
自然を取り込み自然に帰るという循環ができる。
ほんの小さな循環かもしれないが、それが一つ一つ増えていくことで、大きな流れとすることができる。
ヨシをテーマにしたこの家は、大きな可能性を見せてくれるものだった。
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