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スギ材を生かすための挑戦


燻煙熱処理へのいくつかの疑問について
  このほか、燻煙熱処理の実験と使用実例から、懸念されるいくつかの点について触れておきます。
 第1の問題は、熱加工による組成の変化での性能劣化の懸念についてですが、100℃程度での熱処理ではリグニン、ヘミセルロースに変化は生じますが、強度を決定づけるセミロースが熱劣化することはありません。
実験の結果でも、曲げヤング係数は殆ど変わらず、引張強度で若干の劣化が見られる程度で、スギ材において実用上の心配はないとの結論があります。
  第2に、材の色の変化です。
丸太を燻煙熱処理して製材した場合、ほとんど色調の変化は見られず、むしろ、全体に色調が均一化に向かう傾向さえ見られます。
またこの時、スギの黒芯については普通の赤色になるものと黒ずんだままのものとがありますが、実際に板材として使用した例では、約3ヶ月後には黒ずんだ色が消えてしまっています。
処理材が全体に少し黄色味がかる傾向があるかもしれません。
  また、燻煙熱処理加工した丸太からの製材品を、もう一度燻煙乾燥(2次加工)して、平衡含水率を10%以下に下げた場合は、明るさが低下して暖色を増します。
色の好みはありますが、問題があるとは考えられません。
  第3に、強度とともに耐久性の劣化の可能性についてですが、これも問題ないと考えられます。
  長い日時をかけた天然乾燥材は、その間に湿度変化、温度変化によって自然に収縮と膨潤が繰り返され、内部応力が緩和されます。
同時に、自然の熱処理によってセルロースの硬化(結晶化と呼ばれる現象)がすすみますが、これは活性水酸基が減少することによって平衡含水率の低下によるものと言われていますし、普通の材であれば、自然の下で100年程度で結晶化すると言われています。
ヒノキの場合は200年程度とされ、この時点で木材の強度が最高となり、それから時間をかけて元の強度にゆっくり戻ることは度々書いてきました。
  燻煙熱処理は、この自然の行程を短時間で行うこととほぼ同じ性質を持ち、結晶化に至る前(準結晶化とも呼ばれる)の状態を作り出すものですから、強度劣化の心配はありません。
  第4は加工性とコストパフォーマンスについてです。
燻煙熱処理によって得られるものは、成長応力の緩和、ヒズミの均一化、寸法安定、含水率の低減ですから、加工精度は大きく向上します。
  実際に1次燻煙熱処理加工された丸太を製材すると鋸の通りは驚くほど良くて製材業者がビックリする位ですし、製材品をモルダーがけすると、これも業者が驚くほど表面がきれいで、サンダーがけなどの仕上げ加工が不要なくらいです。
カンナがけもなめらかで、節でもクギを打てるようになります。
  他の人工乾燥材を製品化するために必要な割り返しや、反りの切削、仕上げ加工など、これらのいくつかの工程を省いてもすぐに生地のままで使用が可能になります。
  ですから、各工程毎のコストではなく、製品化に至るトータルコストをかなり削減することが可能になります。
  設備費については、特許が一部絡んでいますが、昔からの方式で、炉についてもまだ不完全ですから特許許諾料自体が問題となります。
これを度外視すれば炉(コンクリートでの囲みと多少の設備)の建築費用が殆どと考えて良いでしょう。
  第5は、表面温度と内部温度の差の心配です。
炉内の温度を急速に100℃強に上げれば、丸太の表面温度は急速に上昇することになりますが、昇温速度を一時間当たり最高でも4℃にしておき炉内温度を200℃以下におさえておけば問題はないようです。
大切なのは材の含水率を30~40%に止めておくことで、これ以上の低含水率にすると一部乾燥割れなどの問題が発生するそうです。
  第6の問題は含水率の程度です。
炉内に入れる材は、含水率がほぼ同等の生材であることが望まれます。
スギ材であれば100℃程度の炉内で約2日間燻煙熱処理をすると含水率が30~40%程度になります。
これを炉から出して屋根つきのストックヤードで6ヶ月以上天然乾燥すると平衡含水率の10~20%になりますので構造材や一般材はこの状態で製材加工すれば十分です。
10%以下の含水率が求められる製品化の場合は、一定の製材化をして80℃程度での2次加工の燻煙乾燥をすることになります。
  この場合必要なことは、ストックヤードの確保です。
6カ月以上の天乾は長いと思われるかもしれませんが、次々と燻煙熱処理加工をして天乾して行けば、後はいつでも製材できる状態で保存できますので、初めの数ヶ月の待ち日数が必要とされるだけになります。
燻煙熱処理加工を広げるために
  これまで見てきたように燻煙熱処理は従来の乾燥概念を超え、求められる素材に近い性質の木材を提供し得る方法と言えるでしょう。
 しかし、この方法は近代的なしつらえの整わないまま生まれてきた技術であり、科学的な実験や理論的裏付けが十分確立されていない中で実用化と利害関係が先行し、不十分な完成度での特許許諾料が求められているという問題を持っています。
  最近のいくつかの実践や基礎研究を通して樹種ごとの乾燥温度、スケジュール等のマニュアルも確立されつつある中で、スギ材への応用についてはほぼ見解が統一されてきています。
そこで、スギ材を生かし、林業・木材業を活性化し、木の家づくりを広げるという立場から、いくつかの留意点と課題を考えてみます。
  第1の課題は素材の供給についてです。
一般の木材乾燥の場合でも言えることですが、炉に入れる材の初期含水率を同等なものとすることです。
材の含水率がバラバラのまま処理すれば、初期含水率の低い材ほど過度の乾燥状態となって割れをはじめとするトラブルが発生することになります。
  ですから望ましいことは、山元からの生材丸太を山元から直接入手するような形態を考えることが大切です。
  第2に是非考えてほしいことは燻煙熱処理から完成品に至って供給するまでの一貫したシステムづくりをすることです。
  第1次の処理丸太を六カ月以上天然乾燥するためのストックヤードが必要になりますから、一定の敷地を要します。
その一角に製材設備を配し、更にモルダーなどの製品化への設備を持つのがベストであり、プレカットなどが必要であれば提携工場を確保する方法が考えられます。
  システム化を強調するのは、燻煙熱処理材を乾燥状態や用途に応じて加工することで、流通経費の削減だけでなく、処理材の特性を生かして加工を行えて工程を削減しやすくなり、コストパフォーマンスを適正化して、求められる材料・製品の供給を容易にするからです。
  同一場所での態勢がつくれない場合でも、なるべく近辺で協力工場を持つとかグループ化や協業化するなどの形態が考えられると思います。
  第3の課題は、この燻煙熱処理方法の全国的普及です。
求められるのはスギ材等の国産材の活用と普及ですから、利害が先行すべき性格のものではありません。
ですから、林業・木材業も木材乾燥の専門家もが手を携えて、より精度の高い炉づくりやマニュアルづくりに努め、特許問題を乗り越える技術をつくり広げるという大義の下に立ち上がることです。
  いずれにしても、素材としての木材、日本のスギ材を生かし、人間の生理に寄与して健康を育て、日本らしい木の家づくりを広げることを考えれば、燻煙熱処理は、原理的には素晴らしい技術になることは間違いなく、その取り組みもすでに始まっているのですから、関係するすべてのみなさんがこの対策に関わられることを切に期待しています。
   
 日本で利用されている木材全般を捉えた材質データをまとめたホームページです。掲載されているデータは、針葉樹か広葉樹かどうか、学名、英名、標準和名、別名・地方名、分布地域、比重、収縮率(接線方向、半径方向)、曲げヤング係数、縦圧縮強さ、縦引張強さ、曲げ強さ、せん断強さの14項目です。検索方法は、学名で調べる、英名で調べる、和名で調べるの三通りあり、基本はフレームを採用していますが、フレーム無しでも利用することができます。基にしているデータは、日本材料学会「木材化学工業辞典」の資料作成のために、京都大学佐道先生を中心として行われた実験によるものです。このwebへのリンクは 世界の木材905種 材質一覧  です。
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