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誰のため 誰が家をつくるか

主を穂すれた二〇世紀の家造り


●家を商品にした20世紀
「住みがい」と いう視点から見ても、家そのものから見ても家の主人公は住む人です。 ところが、こんな当り前のことを今更のようにテーマとして取り上げなければならない ような現実を生んだのが日本の戦後の家づくりです。 家の主人公は知らず知らずの内につくり手に移ってしまいました。 こうなった理由は、大きくわけて三つあります。ひとつは、プレハブにはじまる大手ハ ウスメーカーが育成され、資本主義社会における商品の中に組み入れられて大量生産方式 で大量販売されるようになったからです。家は商品として買う時代になってしまったので す。
  もうひとつは、住宅の洋風化が推進されたことで、これまでの家づくりを担っていた大 工・工務店が徐々にその座を追われ、モダニズムを信奉する建築家たちによる建築や、大 手をはじめとする建築業者による建て売りが表舞台に立つようになったからです。 三つ目にあげられるのが集合住宅の増加によるもので、規格化された箱型の器を家とし て買うようになったからです。
  これらの流れをつくったものこそが住宅の洋風化です。 モダニズム建築がもてはやされたことと、洋風化を追及するメーカーの住宅や集合住宅 の進行は、知らず知らずの内に「家は買うもの」という意識を植えさせることになったの です。 商品化された家を買う上での大きな要因となるのが、カッコ良さと宣伝力と営業力です  ですから、まず建築デザインが重要視されます。デザイナーが腕をふるい、洋風感を主 張したカッコイイ家がつくられます。 次いでコマーシャルベースに乗せられる特徴づくりがされます。その代表例が高気密・ 高断熱であり、その下での快適性、省エネなどの機能・性能です。 そんな家をPRするために膨大な経費がかけられます。新聞・雑誌・テレビでの宣伝と モデルハウスづくりです。これらのコストはすべて商品価格に含まれますから、メーカー 住宅の間接費は一般的には住宅販売価格の3分の1を占めることになります。それではま ともな家をつくれないことになりますから、その分を材料や工費にしわ寄せをすることに なります。(この詳細は次号で書きます)  営業費用はすべて間接費に含まれるのですが、大量の営業マンと営業経費が必要になっ たのも家を商品としたからです。 こうして商品化された家は、デザイン力にすぐれ、性能もアピールされ、圧倒的な宣伝 力と欧米型の営業戦略が物量作戦的に展開されることになります。これをマスコミが讃美 し、行政が建築基準法の改悪を中心にした法的な支援をしたことなどから、家は洋風住宅 化した既成品を買うものという意識が人びとの中に浸透することになりました。
  大量生産を可能にするためには、職人技術を必要としない工法の開発と部材の規格化・ 均一化が追求されることになります。規格化された工業製品を組み合わせるようになり、 工法も簡便化されました。工法の中で際立っているのは壁面等のパネル化による大壁工法 でした。耐震性能を強調して壁倍率の規制を強めさせ、パネル化でそれに対応し、デザイ ン的にもスッキリさせて大壁の中を見えなくし、取りつけ収納で一段と家を器にして言葉 巧みに買主の気持ちをくすぐりました。工期短縮にもう一役買ったのが乾式工法の普及で した。
●木と木の家づくりへの攻撃  これらが、ことごとく木造の在来工法と比較して宣伝されて、木造住宅が時代おくれ のような印象づけがされました。一方で、木材そのものへの中傷が繰り広げられます。 その主内容が「燃える」「腐る」「狂う」でした。これは、鉱物資源を主にした工業 製品との比較から持ち出された中傷で、ある面では木材の欠点ではありましたが、ここ に木材の評価のすべてを集約する傾向を生みました。 そのため、自然の植物性素材だから持っている弱点だと認識させることで、自然の素材 が持っているすぐれた特性を論ずることを封じ、悪い印象だけを広げたのです。 その結果、木材と木造住宅を敬遠する風潮がつくられ、それに決定的とも言える追い 打ちのダメージを与えたのが「木材は高い」「木造住宅は高い」という中傷でした。
  大工が減少し、木造住宅が減少したのはハウスメーカー、行政、マスコミ、教育が一 体となった攻勢による、人為的な必然の結果だったのです。 それでも伝統的な木造建築の復興に脅威を持ち続ける勢力が結託して、木造住宅に流 れる伝統的な思想を歪める規制を次々と打ち出してきました。 和風住宅の理念にない コンクリートによるベタ基礎、布基礎、筋違いの強制に始まるさまざまな規制。そして 50年、100年住宅を念頭に置く木造住宅にとっては愚か極まりない瑕疵担保、耐震性能、 10年、20年の性能保証の品確法などをつくり、木造建築の担い手である大工・工務店を 締めあげ、高気密・高断熱化への方向に合流させようとしたのです。 もうひとつの大きな問題は土地対策と関連した流れです。これは、「地価は上昇し続 ける」とする土地神話を土台とした経済成長と、列島改造論に象徴される乱開発や農地 に対する宅地並み課税などの対策とも結びついたものでした。野山と農地を造成して、 広くて安い土地を業者に取得させ、造成させた住宅団地に始まる建売住宅の普及でした  もう完全に「家は買うもの」という意識を定着させるということに成功した、と言っ ても良い変化がここにあります。
●家は買うもの?消費財?  商品化された家にはどんな問題があるかが問われるのですが、恐しいことは、それに 対する問題意識が薄れさせられていることです。
  昔の軍隊のように、体に合った服や足に合った靴ではなく、「服に体を合わせろ」 「靴に足を合わせろ」式になっていることが問題なのです。 マンションはもちろんですが、当初の住宅団地を見ると、まったく同じ造りの同じ家 が並んでいます。そこには住む人の個性も目印らしきものもほとんどありません。 よく住人は家を間違えないなと思うくらいですが、他人が訪ねる時の頼りは番地と表 札と言ってよい家の並びです。 住む家族の構成、年令、住まい観、好みに一切関係なしという家は、それこそ家でな く、器と呼ぶしかないものです。 日本中にこんな住宅団地が無数につくられ、それでも足りないと高層マンションが建 ち並ぶ集合住宅マンモス団地です。団地による違いはメーカーによるデザインと特徴の 打ち出し方の違いくらいでしょう。 海外へ行った人も多いでしょうが、マンション群は別にすれば、こんな異様な光景を 見るのは日本くらいではないでしょうか。 住宅団地をはじめとする建売住宅に見られるのは、規格化、工業化による部材の低コ スト化と画一工法による建築の単純化、効率化、そして大壁構法・乾式工法による省施 工化などでの低コスト住宅です。 それなのにデザインと多少の性能をつけていかにも高級住宅のように見せて高く売る 仕組みにメーカーが足並みを揃えているのです。要するに営利目的のモノづくりでしか ないのが戦後の家づくりだったと言えるでしょう。 「資本主義の社会で、文句があるか」と言われかねませんが、その資本主義的モノづ くりの結果が今日の矛盾の根底にあるのですから、大いに文句を言わなければならない のです。 資本主義的なモノづくりの根本的な問題はどこにあるかと言えば、まず第一に、支払 った代価よりはるかに価値の低いものしか手に入らないことにあります。 今の住民は平均代価三千万円の家で、平均寿命26年の統計があります。30年のローン が終わっていないのに寿命が来て、またローンの組み直しですから、利子を合わせて毎 年三百万円前後のローンを一生払い続ける計算です。支払った代価が、価値よりもはる かに高いことは一目瞭然です。 なぜそうなるのか。それは、ハウスメーカーのこの間の決算報告に見る通りの莫大な 利益率、利益額に示される暴利とも言える儲けと、宣伝、営業費などの間接費に、購入 者が得るべき価値が吸い取られているからです。 第二の問題は、モノというのは、買った時が最高の価値で、年々劣化することにあり ます。これは普通の消費財の考え方です。そして同時に、無機質材による工業製品の姿 です。
  そこで、改めて問うべきことは、家は果たして消費財、消耗品かということにあります
●家は年々成長するもの  戦後の家を見馴れている私たちは、家は買った時が最高で、だんだん劣化するものと思 いがちですが、本来の木の家は、呼吸する材料でつくられていることでそれほど劣化する ことはありません。雨や湿気などによって草類は腐りますから、藁屋根などは5年程度で 葺き替えが必要ですが、葭であれば25年で補修すれば50年持つとされています。 逆に構造材をはじめとする木は、建てられてからますます強度を強め、千年前後の長寿 を誇る材料で、しかも、年を重ねるにつれ木肌に浸み出した樹脂が、光や空気に触れて光 沢や味わいを出して風格を持ってきます。伝統的な土壁の寿命も数百年とされています。 伝統的な木の家は、部分的に劣化することはあっても、家組み全体から見れば、建てた 時が最高なのではなく、年とともに百年以上をかけて成長し、成熟するのが本当の姿です  近年の木造住宅が、必ずしも長寿でないのは、ベタ基礎、布基礎などで基礎の土の偉力 を殺したり、通気を塞いで湿気を籠らせることや、細い材を使っていることが要因です。 それ以上に、自然と馴染むのではなく、多くの無機質材を使ったり、自然に対して強度で 対決しようとする工法のため、接合部等での損傷を早めることが原因と考えられます。 しかし、木の家がいかに長寿であるかについては、本誌では度々、兵庫県の箱木千年家 を紹介していますが、全国には何百年経っても健在の民家が数多くあります。千年前後の 数百、数千の社寺仏閣は、この先まだ何百年もの歴史を刻もうとしています。その建物の 構造材は、主にスギ、ヒノキですから、その強さがわかります。 これらが教えることは、木という材料の素晴しさと同時に、自然と共生し、太陽や月の 明り、風や緑が運ぶ自然のエネルギーを取り入れて生かすことで、26年住宅とは比べもの にならない無限の生命を持つことができるという事実です。
  これが、商品としての家(器)との決定的な違いなのです。家は商品として買うという ものではないことは、あまりにも歴然としています。 家は、それぞれの条件や希望に応じて自然との共生の思想でつくるもの。これが導き出 される唯一の答と言っていいでしょう。
●住む人こそが家の主人公  ここまで書けば、もう語るまでもないでしょうが、家の主人公は誰かということについ て言及してみます。  誰のために家をつくるか。それは住む人のためにつくるという以外の答はないのです。そ の人が、生きて暮らすために必要だから家をつくるのです。 ですから、家づくりに当たっては、つくる人=住む人が基本です。実際に建てる人が必 要ですが、大工・工務店や建築家の仕事は、住む人の条件・希望を聞き、それをもとに地 形や気候風土に合ったつくりを考え、材料を手当てして建てることです。 先にも書いたように、既成品に合わせて住むのが家の姿ではなく、住む人(施主)の意 向に応えてつくられるべきものです。家の主人公はあくまでも住む人であるのに、それを ないがしろにしてきたのが戦後の家づくりでした。
  家は、住む人の要求から出発し、その夢を適えるためにつくられるものですから、一 軒々々、姿形も、大きさも、間取りも、材料ものすべてが違って当然です。違うからこそ それぞれの家は、個性を持ち、住まい手の納得と喜びを生んでくれます。 このことこそが「住みがい」のある家の大きな条件であることはすでに書いた通りです  共通であって然るべきは、家づくりの理念だと言えるのですが、その理念が混乱してし まっているため、家を求める人たちにも、本来の家というものの姿や理念を納得させるこ とができないのです。  
そのことは、家が商品として売られることに不思議さを感じなくなった時代の反映とも 言えるでしょうし、心ある建築関係者でも、生きるために強い勢力に付いたり、流行に乗 らざるを得なかったため、理念の継承が途切れかけたということもあるでしょう。 本稿のタイトルは「主を忘れた20世紀の家づくり」ですが、正確に言うならば、戦後は、 住み手が主人公であることを考えさせないようにした家づくりの時代とも言えますし、家 づくりまでもが資本主義の原理に飲み込まれ、企業の利益追求の具にされたとも言えるで しょう。 戦後の西洋文明の支配下で、資本主義思想と共産主義思想という二つの潮流と陣営を操 る「近代」という妖怪に飼い馴らされ、洗脳されてしまっているのです。 「近代」を語る張本人は資本そのものであり、その資本の代弁人である国際金融財閥で す。資本は飽くなき増殖の強烈な意志をもって、相対立するかのような二つの潮流を操り ながら人々の意識を麻痺させて、目先の判断しかできないような状況をつくり出してきた のです。 資本がその意志を貫くために「近代」を語り、資本の意志に背くような、民族固有の伝 統や制度(天皇制なども含め)の排除、国家・民族への帰属意識を封殺する個人主義・自 己主義の徹底、民族的存在を示す私的所有の没収・民族固有の文化の変質化などを押しす すめてきました。それが資本主義的発展を可能にしてきたのです。家を商品として買うも のであるかのように仕向けてきたのもそのひとつでした。 家が商品である限り、住む人は決して主人公とはなり得ないのです。主人公はモノをつ くって売る側ですから、そこにあるのは主人公の思想、つまり、増殖・金儲けという資本 の論理です。
  最近は、数々の矛盾(シックハウスや欠陥その他)が露出していることもあり、買い手 住み手に迎合して多少配慮し、オプション代と引き換えに要求を取り入れたり、住み手の 立場に立つかのように「健康」を謳ったりしています。しかし、資本の論理を断ったわけ ではありませんから、それらは目くらましでしかなく、本質は変わっていないのです。あ くまでもメーカーが主人公という姿は続けられることになります。                                  
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