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スギ材を生かすための挑戦

燻煙熱処理加工

~そのメカニズムと活用について  

研究・監修/野村隆哉(京都大学木質科学研究所・木質バイオマス研究部門・物性制御分野)
企画に当って
  乾燥問題は、これからますます重要になってくると思われますが、従来の人工乾燥の方法には、直接加熱式と間接加熱式があり、主に間接加熱式が実用化されています。
  一般的には、蒸気式、除湿式、減圧式、太陽熱式が主力で、比較的新しい技術として高周波乾燥やマイクロ波乾燥がありますが、コスト高という難点があります。
  これまでの人工乾燥は、含水率を下げることを目標にして、乾燥スケジュールに合わせて乾燥させるものでした。
低温除湿から高温乾燥までいろいろ工夫されてはいますが、基本的には、単に木材中の水分の除去という対症療法的発想から一歩も出ておらず、材による乾燥ムラや、表面部だけの乾燥で、後から芯部分の水分が浸み出して表面含水率も上昇するという問題も少なくありませんでした。
  これに対して今注目したいのが直接加熱式乾燥の燻煙熱処理による乾燥方法です。
  この方法は「古くさい」とか「不完全だ」「ススで汚れて材がきたない」ということでほとんど見向きもされずに来ました。
ある木材乾燥に関する書の中でも「東南アジア諸国のごく零細規模の工場では、現在でもしばしば見かけることができる。
乾燥室の構造が悪いと乾燥材に着火し火災が発生する」と低い評価を与え、人工乾燥の前処理として多少評価している程度です。
  燻煙熱処理については、現在、氏家式燻煙熱処理法と、古代人式等がありますが、京都大学木質科学研究所の木質バイオマス研究部門・物性制御分野で、木材から建築に至る広い分野での研究で知られる野村隆哉さんが、多くの実験と実用、その分析を基に研究してきた成果があります。
  そこで、ここでは野村さんの研究内容を主に他のいくつかの基礎的研究も考慮して燻煙熱処理方法と今後への課題についてまとめてみます。
これまで解明されていなかった熱伝導の3つの形態との関係、生物素材を燃焼させることによる効果、成長応力と熱処理のメカニズム、遠赤外線効果など、燻煙熱処理による効果が科学的に解明されています。
  応用についてはいくつかの技術的な問題があったり、物理的に未解明の問題も残されてはいるようですが、少なくとも燻煙熱処理により、乾燥と成長応力の低減、加工性の向上を中心に、スギ材の活用に大きな可能性が拓けるものです。
  スギ材の新たな活用への挑戦として大いに注目し、全国に広げてもらいたいと願っています。

はじめに 20世紀は大量生産、大量消費の時代で、規格化された使いやすいものでなければ、たとえ良いものであっても市場性がないということでなかなか使われずにいます。
  ハウスメーカーを中心とした洋風住宅に見られるように、材料、部材は規格化された工業製品が圧倒的に多く使われています。
  それらの多くは石油などの化石燃料を原料としたもので、アレルギー疾患をはじめとするシックハウス症候群を生んだり、廃棄時の公害問題、製造時のエネルギー消費量の多さなど問題だらけです。
  それに対して木材は、住環境における生理機能との同調性と健康への寄与や、環境・エネルギー問題などから見ても最良の素材で、規格工業製品との対抗力を高める部材としての規格化やデザインの研究が緊要になっています。
  木材の使いにくさとされるのは、腐朽とともに、反りや割れ、収縮に基づく狂いであり、寸法の不安定さが規格化を阻んでいます。
これらの主な原因が成長応力と言われるもので、樹木が地面に垂直に立って成長しようとするために必要な力であり、風などの外力からの防護や自重を支えるために自然の内に生まれる力です。
  しかし、素材として需要に応えるためには、木材の①加工歩留りをあげること、②寸法安定などの材質の改善を図ること、③安定乾燥によって耐久性を高めることが必要になります。
  良材の枯渇に伴って、この木材の欠点とされる問題の解決は物理的、化学的処理によって加工することでしか規格化の枠にはめることができないでいました。
  ところが、燻煙熱処理による加工になんとかこの困難な問題を解決してくれる鍵があることがわかってきましたし、目下のところ、木材の良さを生かしつつ欠点を除去するにはこの方法しかないのではなかろうかと思われます。
燻煙熱処理とは 
燻煙熱処理とは、木材の廃材を燃料にし、その熱と煙で木材を燻して木の成長応力による狂いを軽減させ、あわせて乾燥を促進させる方法で、直接加熱式と呼ばれる乾燥法のひとつです。
  この方法は、古い昔から木地師がロクロ加工の前処理として、荒木取りした木地の狂いを除き、乾燥させ、加工しやすくする方法として用いられてきたもので、現在でも東南アジアの製材工場だけでなく、日本でも取り入れられている方法です。
また、この燻煙熱処理は、竹刀や竹細工の加工の前処理、竹炭の前処理としてもかなり用いられているものです。
  また、昔から杣人たちは、山火事や雷に打たれて黒焦げになった材を挽くと、癖のない素直な材が得られることを知っていたと言います。
ここから発想したのが氏家実氏で、ケヤキ等の銘木の場合、辺材は黒焦げになってもよいということで、かなり高温で処理することから始めて、氏家式木材乾燥法が誕生しています。
その後、名古屋大学の奥山教授らによって、熱処理で木材の欠点と言われる反りや狂い、割れの原因となる成長応力が緩和されることが明らかにされ、一躍注目を浴びるようになってきました。
  燻煙熱処理による木材乾燥は、氏家式のほかに、それを母体にしたEDS(エコロジー・ドライ・システム)、それにオンドルの技術から着想した菅岡氏の古代人方式とがあるようです。
  燻煙熱処理による木材乾燥が、乾燥能率が低いとされた欠点として、温湿度の調節が困難、煙の循環の不均一による乾燥ムラ、ススの付着による材表面の黒変、温度制御が困難なことによる火災の危険等が指摘されてきました。
科学的であることを信仰し、カッコ良さを大切にする現代にあっては、「前近代的」「汚い」ということでほとんど無視されてきました。
  しかし、これらの欠点とされる指摘は、これまで木材乾燥主流を占めてきた蒸気乾燥やインターナル・ファン(内部強制還流)方式の乾燥機を基準にしたところからのもののようです。
日本の近代科学が、西欧のものまねから出発したことは、林業・林産業においても例外ではありません。
木材乾燥の技術もおそらく外国のものまねからきており、前記のような欠点の 指摘も、燻煙熱処理の原理を詳細に研究した結果の結論で はないことは明らかです。
  しかも、これまでの結果は、既存の未完成な装置を使ってただ実験したにすぎず、その結果から燻煙熱処理の欠点ばかりをあげつらっているのですから論外です。
  この乾燥方法は、近代的なしつらえがなかったばかりに、これまで無視されてきましたが、実は、木材の乾燥のみならず、反りや狂い、割れなどの原因となる内部応力の緩和、除去を含め、最先端の技術と言えるようです。

 燻煙熱処理の特徴 
 ~熱を伝える3つの形態を生かす 燻煙熱処理について一番理解しにくい、燃焼ガスを中心とした炉内の混合ガスの機能と炉内の雰囲気について整理してみます。
  木材乾燥の世界で知られている既存の技術は、そのほとんどが熱媒体としては極めて効率の悪い空気を用いています。
おまけに加熱については時間がかかり、調整が難しく、木材の内部まで熱が伝わりにくい「伝導」と「対流」に頼り、直接熱を伝える「輻射熱(放射熱)」という重要な方法を考えに入れてはいません。
  燻煙熱処理法では、熱の「伝導」「対流」に「放射」を加えた加熱処理となっていることと、効率の悪い空気の代わりに炉内の熱媒体として燃焼ガス(煙)という混合気体を用いているところに最大の特徴があります。
これは、開発者もこの原理については当初は考えていなかったようですし、木材乾燥学の専門家も同じようですが、この解明によってこそ木材乾燥の最先端の技術と言えるものとなり得たのです。
  そこで、燻煙熱処理の雰囲気を構成している炉内の主な要素の空気と水、そして燃料となる木材を不完全燃焼させて生じさせるススの成分であるカーボンの物性の中から比熱と熱伝導度をそれぞれ比較してみます。
  比熱とは、1gの物質の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量(カロリー)を言いますが、炉内を構成する主な要素の比熱の大きい順に並べると、水、木材、空気、炭素となります。
  含水率100%以上の生材丸太は、燻煙熱処理過程で炉内温度が上昇する時、木材の中の水の比熱が高いため、材温の急激な上昇を抑える役割をします。
一方、炉内に浮遊する炭素の比熱は空気より小さいため、空気だけの場合より炉内温度の上昇には効果的に働くことになります。
つまり、空気だけの場合より、炭素との混合気体の方が蓄熱に関するエネルギーのロスが少なくてすむことになるはずです。
~燻煙熱処理による遠赤外線効果 次に熱伝導を比較すると、炭素の熱伝導度は100℃の空気の約125倍、水の約24倍になります。
そのため、炉内の混合気体中の炭素量が多ければ多いほど、水蒸気量が多いほど、空気だけの場合より熱伝導率が大きくなることになります。
  ここから、従来のインターナル・ファン方法の乾燥機の熱効率が悪いことがわかります。
木材を乾燥させるための外部からの熱の伝え方は前述の通り「伝導」「対流」「放射」の3つの形態がありますが、「伝導」は、熱が物体の内部を通って高温部から低温部へ伝わっていく現象です。
「対流」は、気体や液体などの流体によって熱を伝える現象で、ともに間接的に木材内部を熱して乾燥させる方法です。
  これに対して「放射」は、熱源から直接、物体に対して電磁波として熱を伝える現象です。
  燻煙熱処理の際には、煙に含まれるカーボンから放射される電磁波で、カーボンの黒体輻射熱としての熱放射を有効に生かすことになります。
このカーボンとタールが、炉の内部に厚く沈着・付着した状態になれば、黒体輻射熱はより有効になります。
  カーボンから放射される電磁波の波長は燻煙熱処理過程での炉内温度域20~150℃では9.89~6.85ミクロンで、これは遠赤外線(5~1000ミクロンの波長。
1ミクロンは千分の1㎜)の領域に入る電磁波です。
この電磁波の熱放射(黒体輻射熱)が丸太に直接作用して材温を上げる働きをします。
  黒体輻射熱をわかりやすい例で示すと炊飯があります。
備長炭などを炊飯器に入れてご飯を炊くと、炊き始めで入れない場合より最高8℃程度温度が高くなり、蒸らしも含めて温度が高く、上手に美味しく炊けます。
これも炭による黒体輻射熱、遠赤外線の効果で、燻煙熱処理過程でもこれらの機能が働いていると言えます。
  次頁の図は、内容積560立方mの炉内温度の変化を示していますが、これが熱の伝導と対流だけによるものであれば、これほど短時間に大容量の炉内温度が均一になることはないはずで、これは、炉の内壁に沈着・付着したカーボン、タールおよび燃焼ガス中に含まれる微細なカーボンによる熱の吸収と、続いて起こる黒体輻射による熱放射によるところが大きいと考えてよいでしょう。
  このほか、同一丸太の長さを変えた燻煙熱処理材でも、従来の乾燥には見られない均一な加熱状態で推移するデータも示されており、いずれも混合ガスと熱放射が加わると、従来の木材乾燥の概念を超えた結果が得られています。
  そこで、生材丸太の燻煙熱処理の熱源となる木材廃材の燃焼ガスについてふれておきます。

        

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