論壇 苦労した国産材、しかし再度の挑戦へ
苦労した国産材、しかし再度の挑戦へ
--国産材と外材を時代の流れにあわせ90年--
私は、林業技術者でもなければ、林業関係者でもありません。木材を業とした会社の経営者です。
国産材について何か書けとの命をうけましたが、私自身や会社も発展途上であり、日々の経営に精一杯で、山や林業についての知識や経験を豊富にストックしているわけではありません。
そこで、当社が関わってきた国産材の商品とこれからの戦略、そして会社経営から見た林業業界について書かせていただきました。
利用する側と生産する側では立場が異なってまいりますので、経営者からの考え方ということであえて記載するところもあります。失礼をお許しください。
当社は歌山県において、徳川寛文年間(1661年)より代々の中川藤吉が継承経営してきた山林業より、祖父中川計三郎が独立して、伊勢大杉谷御料林、奈良高見山、紀州栃谷山等に於て素材の生産業を営んでいました。祖父はそれまでの国産林業から、大阪に店を出し、戦後の復興需要に期待しました。
父中川藤一によって大阪店は軌道に乗りました。父は大阪での仕事を杭丸太の専門会社として、当時の大阪地区の土木、建設ブームに乗って、会社をそれなりにしてきました。株式会社としての最初の扱い商品は杭丸太でした。現在でもこの創業来の商材は扱っており、昔に比べると大幅な扱い減ですが、安定した仕事となっております。樹種は米松、ロシアカラ松、ニュージーランド松などの外材や、杉、桧、信州カラ松などの国産材です。
杭丸太専門業者として、順調に推移していたものの、時代の流れで丸太がコンクリートパイルに変わっていく中、当社は杭丸太だけではなく土木仮設用材として、矢板やバタ角などを扱い始めました。
その後土木工事の非木材化が進んできたため、商社の援助を得て、木材業者さまを対象にした住宅用木材の販売部門をつくりました。
この後、関東系のディベロッパーや電鉄系のディベロッパーが、関西の住宅産業に参入し出しました。
当時の時代背景は流通の短略化、小売店の川上化、メーカーの川下化の時代であり、当時流通会社であった当社も将来のため、戦略をディベロッパーに向け、住宅現場に木材を納材するようになりました。
金額的には大きなものとなりましたが、厳しい競争と債権の回収がなかなか出来ないことなど、将来に対する一抹の不安もあり、今後の戦略をたえず考えていました。
ちょうどそんな時期に、戦後植林した杉などの間伐材が、今後相当数市場に出て来るということが予想されました。三重大学の講師を長年していた父は、生徒さんのその後のネットワークなどから、国産材の将来性を感じとったのでしょう。
杉、桧の間伐材の将来性に投資をしました。社内でアイデアを募集したり、身近なイベントに参加したりしておりました。そして、当時の林野庁や営林局の理解を得られたこともあり、本格的に力を入れました。
1978年頃、月々50万円もの費用をかけ、外部のデザインチームに間伐材を利用したインテリア、エクステリアのデザインを考えてもらいました。1年半くらい続いたでしょうか。当時は住宅産業からの利益がありましたので、そのような費用も出せたのでしょう。1980年の大阪国際見本市に出展しました。
木材の業者としては当社のみで、大いに注目されたものです。2年後には高知県のマルボグループと一緒になって再び出展しました。このときは既にインテリアでは間伐材利用はダメと判断し、エクステリアのみに集中しました。丸太のフェンス、門扉、フラワースタンド、外灯などを発表しました。
また高知県の業者さんから供給を受けた木製の物置も展示しました。業界の方々よりも一般の方々の反応が非常によかったので、父も意を強くしたと思います。
しかし、現実はそれほど甘くなく、厳しいものでした。結局何年かは新商品を開発したりしましたが、
下記の3つの理由により、最終的に間伐材で商品を作ることを中止せざる得ませんでした。
①間伐材がもつ木の性質を矯正できなかったこと、いいように活かせなかったことです。
②販売価格が高かったことです。特にユーザーが求める価格と大きな開きがありました。
③時代として早すぎたことです。まだ市場がひややかでした。
結果、杉、桧の間伐材という樹種を使うことについて失敗しました。
間伐材を利用したエクステリア開発に完全に失敗し、国産材から遠ざかり外材にシフトし出しました。
しかし、世の中おもしろいもので、商品としての開発は失敗でしたが、いくつかの勉強と体験ができました。製造手法や屋外における木の耐久性を考えた施工のノウハウなどです。
1.価格の決め方も大切でした。今では当然のこととなっていますが、当時の私たちは原価に積み上げて定価を決めていましたが、一般に販売する商品の場合は定価を設定し、そこから逆算して材料や作り方を決めるという方法を学びました。製品と商品の違いです。
2.間伐材を利用したエクステリアはダメでしたが、エクステリアの施工の仕方、デザイン、設計などのノウハウをためることができ、その後フィールドアスレチックの設計、施工や木製迷路、住宅用デッキ、 フェンスなどの木製エクステリアの仕事に携わってきました。最近では大阪の
ユニバーサルスタジオの屋外の木造施設、ボードウォーク、フェンス、木塀、ベンチ、テーブル等はそのほとんどを施工 (一部は企画や設計も行う)させていただきました。私たちが利用した木材は約1400m3でその内 国産材は300 m3程度利用しました。
3.当時共同で仕事をしていた高知方々の関係から、杉、桧の間伐材を利用したクラフト商品を扱うよう になりました。時代の流れから商品構成は変わってきましたが、現在もこの仕事は当社で行っており、
日本各地の木製品を全国のウッドクラフトショップに販売しております。
2000年ごろからはいくつかの新商品に間伐材の利用や国産材を優先して利用してきました。
1.木壁画(もくへきが)
国産材のさまざまな木がもつ色をそのまま活かして、その建物のコンセプト にあうデザインを作成し化粧壁面をつくるもので、壁材と芸術作品の中間的なアート建材というものです。
わりあい高価なものですが、他社には簡単に真似の出来ない特殊な工法を開発しました。
2.間伐材丸太利用の化粧土留め、修景用土木資材
この商品とシステムは既に先行している会社が多く、私たちは出遅れています。
この分野では相当量の間伐材などが今後利用されると思いますので、私たちも日夜開発中です。
3.木工沈床
川に自然をとりもどすために最近行われだしたもので、当社では大阪の2つの河川の木工沈床を 企画、施工しました。 日本には何社かのメーカーがありますが、当社も特殊な工法で特許申請中です。 この分野はマーケットが修景用土木資材にくらべると少ないと思われます。
4.自然木フェンス
やはり特許申請済の商品ですが、私が一番期待しているものです。商品も大変特長のあるものですが、 この販売システムに特長があるのです。これからの時代は地元の木を利用して、地元の業者さんが仕事を するというのが今後の方向と思います。特に間伐材のようにコストの安い木に付加価値をつけても、 現場まで運ぶ運賃に費用がかかると、相当の付加価値でないとビジスネ採算に合いません。
この商品は製造されたフェンスを売るのではなく、また遠い地区の工事を受注すのではなく、システムの 販売をしていこうというものです。作り方、施工の仕方などのシステムを販売しようというものです。
その地区の木で、地区の業者さんに施工してもらおうというものです。この自然木フェンスの特長は、 利用する丸太が丸棒になっていなくても利用でき、末口と元口の大きさが異なっていても、丸太がねじれ て いても、曲がっていても、枝がついていても、簡単にフェンスになるものです。またコーナーの曲がりや傾斜 地などの角度も自由に取り付けられます。
また金具が外部から見えにくいことも、景観と合います。そしてメンテナンスが簡単で、腐った場合でも 簡単に取り替えることがでます。
取り付け金具と丸太の加工方法が特許なのですが、これを加工するマシンは特殊機械を購入する必要 は なく、おそらくどの森林組合さんでも持っているような簡単なマシンで出来るのです。
現在大阪府で4箇所施工しましたが、高い評価を得ております。いずれ日本も米国、カナダのように、 製材した木を利用したフェンスなどより、自然の木を活かしたものが望まれる時代が来ると思います。この点も期待できます。
以上、国産材に力を入れてきた主だった商品の説明をしました。おそらく他の木材会社でも同様の商品 開発 をされていると思います。今後このような分野ではまだまだの発展が望めるものと思います。
●会社経営者として木材、林業業界について思うこと
1.なぜITの利用をしないのか
対外、対内ともにITの技術、特にインターネットが重要になっています。費用をかけず情報の受発進が できるのに、まだ利用する事に躊躇されている方が多いように思います。他のIT技術利用であれば、 目的をはっきりさせてから導入しなさいとサジェスションするのですが、ホームページはもう既に「消極的に考えても導入しなければならない」時期になりました。
会社の現在の仕事、やりたい仕事、求める仕事、自分たちが、お客様にどのようなことができるのか等を数ページだけでも掲載する必要があります。もう「ホームページがない会社は仕事をする気がない会社」と 見られる時代です。みすみすお得意先を逃しているのではありませんか?
2.おもいきり、前向きで、正攻法の経営を
私が経営している会社は典型的な中小企業です。さまざまな会社と競争しています。私は誰にも負け
ない努力を毎日していますが、生き残れるか、残れないかわかりません。仕事ばかりすることが、自分や 家族にとって最良の道かどうかはわかりませんが、今の時代に会社をつぶさず、生き残っていくためには、
希望と共に目標や戦略を考え、ただひたすら頑張るしか方法がないのです。
国や役所が何かをしてくれるのを期待したり、そのようにばかり動いていいるのであれば、はっきりいって、
その会社はダメになるでしょう。早いうちに他の業種に乗り換えた方がよいと思います。
今の時代のトレンドはそのようなことではないのです。昨年の主だった社会の動きを分析しました。自民党 は人気ないのに、小泉首相が人気がある、さまざまな企業の不祥事への追求、北朝鮮外交、新種運転 罰則強化など、一見関係がないようですが、一定の法則や考えが共通に流れているように思います。
(このトレンド分析は紙面の関係で割愛しますが、ホームページに記載しました。)
自分たちでリスクをとり、自分たちで生き残る新しい方法を考えてゆかねばならないという事です。
そのためには誰にも負けない努力をして、勉強や動かねばなりません。今の時代のスピードが速いのは
理解されているのに、自分たちの会社は昔と変わらないスピードで仕事をされているのでは取り残されます。
3.時代を見方にしていますか
今、日本だけでなく、世界の流れとして、木材、林業の仕事を後押ししてくれているものがあります。
今まででは考えられなかった状況です。
1.地球環境の問題とりわけ地球温暖化やCo2の発生に関してです。今までの「木を切ることが悪い」
といった誤った考えに対して正しい理論が理解されてきました。他の業種の方々が仕事をすればするほど、環境破壊をすることを考えると、木の業界はどんなにめぐまれているでしょうか。仕事をすればするほど社会貢献いや地球貢献できるのです。
2.シックハウス、環境ホルモンなどの人の身の回り環境、住宅建設の現場では一般の方々の意識の高さ
に戸惑っているようです。事実ムクの木材の床板、壁板などのマーケットは非常に好調です。
3.人に合う有機物質として木があたえるやすらぎなど、昔から言われていますが、先の2つの問題とからんで、再び木のブームです。木の特集をした住宅雑誌の発行が多くなったり、木や樹木に関するテレビ放映が非常に多くなりました。 これらの流れを逃してはいけません。私は今の時代に木の仕事をさせていただくことを喜びと感謝をしています。他の業界の方々と比べたら、仕事をおもいきりする上で、後ろめたくなく、 どんなにすばらしいことでしょう。