樹から木までの散歩道

テキスト ボックス: 切手

ヒバ・アスナロ・アテ
木材の仕事を初めて間もないころ、業界の旅行で石川県に行って驚いたことがあった。アテの木はいい、すばらしい。というのである。アテとは私達の業界用語で木材の欠点に関する言葉で大工も材木屋も嫌がるので、意味がわからなかった。しばらくして、ヒバの事を言うことがかわり疑問は解けたが、その後も植物図鑑で探しても「ヒバ」を見けられず、長い間わかりづらかった。
厳密にはヒバという木はなく、木材、建築業界で使われている名である。植物学的には本州中部から四国、九州にも見られるものがアスナロで、北海道から本州の関東北部まで分布するアスナロの変種がヒノキアスナロで、(別名青森ヒバ)。能登半島へ移植されたヒノキアスナロが、アテと呼ばれているのである。木材の流通としては一括してヒバとして呼ばれている。
アスナロの語源は「明日はヒノキになろう」に由来するというのは誤りで、古くはアテヒといわれ、高貴なヒノキという意味であった。
日本固有の樹種で、本州から九州に分布し、関東北部・東北北部・木曽に多い。生育はきわめて遅い樹木。
葉はヒノキに比べて厚く大きく、鱗片状で粗剛な感触、濃緑色で光沢がある。葉の裏面は白色の気孔線が目立。枝葉、樹幹、根株などに香りがある。
 木材の匂いは芳香と記載されていることがよくある。地元の方はこの木の匂いをいいと自己暗示にかけているか、昔からその匂いに慣れてきているかかも知れないが、平均的な日本人には決していい匂いというわけでもない。
会社のクラフトのビジネスでヒバ製の小箱を大量に仕入れたが、その匂いにはまいってしまった。
しかし木材としては大変優秀な木で、「ヒバ普請」はシロアリ・ダニ・ゴキブリを寄せつけず、3年間は蚊が入ってこないと言われている。
木材ははよく水湿に耐える。耐朽・保存性は高く、地中・水中での耐性はヒノキに優る。 テキスト ボックス: 樹木
用途は、建築、家具、器具、土木材、橋梁、船材、車両、彫刻、抗菌まな板、漆器、風呂桶。樹皮は火縄として活躍し、水もれをふさぐ素材や、屋根葺としても重要だった。また、日本最初の地下鉄(銀座線)の枕木として使用された。
知名度か低いためか、運賃コストの問題か青森ヒバの土台を使用する地域は限られている。しかし耐久性、耐湿性、抗菌性やシロアリ対しての防蟻効果があることから、ヒノキ、クリを以上の住宅用土台の最高級品といえよう。
またヒノキチオールを最も多く含んでいるが、これを含む木は世界でも稀で、その名前から桧に含まれていると思われがちだが、桧にはあまりなく、青森ヒバが群を抜いて多い。発見当初からそのたぐいまれな抗菌力には大きな関心が持たれ、医療、農薬、食品など多くの分野で研究が進められている。
木曽の檜・秋田の杉とともに青森ヒバは、日本三大美林を構成している樹木だが、減少した日本の天然林の中で青森ヒバだけは比較的多く蓄積されていると言われる。

 

現在伐採されているものは、江戸時代に幕府と弘前藩に植えられたもの。樹齢 200 年を越すものが多く、現在でも 1300 万m3もの資源量があり、木曽檜の約3倍、天然秋田杉の約7倍の量だ。現在は国有林として東北森林管理局によって保護育成管理されている。成長率 1%の計画的に伐採しながら、種が落ちて生えてくる稚樹を育てる天然更新であるため将来的にも毎年約 10万 m3の供給でも半永久的に供給が可能である。

文学では他の樹種にくらべると出場回数は少ない。宮沢賢治ではいつくかで出てくるが、「陰気なひば」などの表現が多い、室生犀星の「杏っ子」ではあすなろと陰気な植木屋をダブらせている。山本有三の「路傍の石」、島崎藤村の「夜明け前」では背景として捕らえている。
太宰治の「津軽」でひばのことをその独特な口調で「津軽伝統をほこっていいものは、林檎なのではなく扁柏だ。関東、関西の人は津軽といえば、すぐに林檎を思い出し、扁柏林のことは知らない。」と言い切っている。木材業の私でもその通りだった。青森県という名は山々に樹木が枝々をからませあって、冬でも青く繁っているところから来ているのではないかともいっている。ひばを中心にブナ、楢、桂、栃、唐松などが産地だからその通りかも知れない。
ビバ、アスナロの木を有名にしたのは井上靖の「あすなろ物語」だろう。
この原稿のために、再度読み直した。本というものは不思議なもので、そのときの自分の状況や考え方を反映する。あらすじはわかっていると思っていたが、まったく新鮮で、今回はより感動した。
以前「バックトゥザフューチャー」のビデオを見て感動し一晩に3回も見たことを思い出した。
鮎太が密かに思いを寄せていた未亡人に、
「あすは檜になろう,あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだって!それであすなろって言うのよ」と言われ、さらに
「だって,貴方は翌檜でさえもないじゃありませんか。翌檜は,一生懸命に明日は檜になろうと思っているでしょう。貴方は何になろうとも思っていらっしゃらない」
この最後の言葉が、「バックトゥザフューチャー」も「あすなろ物語」の主張も同じなのである。どちらも自分から運命に流されるのでなく、自ら作っていくということを再度確認した。
テキスト ボックス: 樹木人は自分の考え方により、たえず成長していく。その成長期に自分をただの木にしてしまうか、翌檜にするか、また檜にするかは自分の運命責任なので、私も残りの人生、がんばろう。

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