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第6章 造形材料としての木

8.酒樽に残る木の好み

 日本人は世界でも珍しい独特の木の栽培法を発達させてきた民族である。その足跡をたどると、これまでに述べた日本人の木に対する好みのこまやかさが、もうひとつはっきり理解できるであろう。
 私たちの祖先は良質で美しい木を育てるために、驚くほどの努力と工夫を重ねてきている。北山林業や吉野林業などはその例である。一年で収穫の得られる農作物ならいざ知らず、数十年という気の遠くなるような長期間をかけて、林産物にこれほどの情熱を注ぎつづけるということは、その背景に木を好み木を愛する大衆の支持がなければできないことである。それがあったからこそ数百年にわたる技術の蓄積を支えてきたのであった。以下は京都北山のスギの育て方について述べる。
 京都盆地を囲む山々のうち北方の諸山は、東山、西山に対応して北山と呼ばれる。この北山の麓から流れ出る清滝川の流域に、古くから磨丸太をつくる北山林業が発達した。ここでは台スギという特殊な栽培法をとるので、台スギ林業の名でも知られている。北山林業は数寄屋建築の材料として欠くことのできない、元も末も同じ太さの長い丸太をつくるために考え出されたものである。こうした技術が定着するまでには、数百年にわたる長い経験と研究が積み重ねられてきているのである。
 木を植えたままの状態で放っておくと、幹は元が太く末が細くなる。苗木を密植して、幼齢のうちから下枝を切り落とし、頂部だけに枝葉を残して生長を抑制すると、元も末も同じ太さで節のない真っ直ぐな柱材になる。伐採の前年にさらに梢を小さくつめると、材の表層は艶が増す。それを川砂で磨きあげて美しい磨丸太をつくるのである。だがこの場合生長はすこぶる遅くて、ふつう柱の太さになるまでには三十~四十年もかかる。
 以上は床柱に使われる丸太についてのことであるが、垂木丸太の栽培はもう一つ芸がこまかい。スギを植えて数年経ったとき、下枝を残して中間の枝を切り払ってしまう。すると下枝から芽が出る。それを数本残して幹を切り払い、株の上で垂木丸太を仕立てる。仕立て方は床柱の場合と同じである。二十~三十年かかってやっと直径が五~七センチの太さになるのだから、一種の盆栽的な栽培法と考えればわかりやすい。根元の株は数百年も生きつづけるという。
 以上に私は、北山丸太が材積の生長を犠牲にして、形の美しさを追求するものであることを述べた。だがそれだけでは垂木としての性能は十分ではない。茶室建築の深い軒の出を支えるためには、細い丸太は丈夫でなくてはならない。だが自然物の性質を変えることは不可能に近い。それを北山丸太はちゃんとやっているのである。京都付近で育ったふつうのスギと、台スギの垂木丸太の強さを比べてみると、曲げ強さにおいて約三十パーセント、衝撃強さで二倍くらいも増大していることが、私の行った実験(小原二郎「日本林学会誌」33・2、昭二六)の結果わかったのである。これは驚異といってよいことであろう。
 吉野の林業もまた同様に人工的に改良されている。吉野スギは良材だから灘の銘酒の酒樽を作る。酒樽の用材は年輪の幅が均一にそろって、美しく見えることが条件である。だが山に植えたまま放置すると、年輪は幼齢のときが広く、老齢になるに従って狭くなる。吉野では焼畑耕作民の社会的事情から次第に密植するようになり、それに伴う間伐が繰り返されているうちに、年輪幅が一定になるような調節の方法を見出し、美術品ともいえる酒樽材を作ることに成功したのである。いまでは需要が減ったうえに、そんな高級な酒樽はもはや見ることが出来なくなったが、江戸時代にはこうした美しい酒樽に灘の銘酒がつめられて、京都や江戸に送られていたのである。日本人の木に対する嗜好を知るうえで、酒樽もまた有力な資料の一つである。

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