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木材流通

第3章 流通経路及びポジション

産地が消費地へ乗り出す時の問題点

また、産地から消費地へ乗り出してきた時、どういう問題があるかと言うと、木材の品揃え管理といった面だけを見ても、簡単なことではないということを指摘できます。

 家一軒を建てる場合に、構造材を最初にトラック一杯運んで行っただけでは家は建ちません。いずれ、大工さんが加工を間違えたとか、ここへ押入れを作って欲しいという建て主からの追加注文がきたとか、根太にするつもりだった材をタルキに使い間違えたとかが生じ、当初予定では考えられなかった追加工事、変更工事があるのが普通なんです。現在のように、建築工事が合理化しているのだから、そんな追加や変更工事はないのではないかと思い勝ちですけれど、プレハブ住宅のように工場で全部作ってしまって、それを現場に持ってきて張り合わせるだけならば別ですけれど、そうでない限り、追加工事、変更工事がでてきます。その場合、建て主にしろ大工さんにしろ、晩に「ああ、こうするんだった」「あれが足りなかった」と気付いて、朝にはその材料が欲しいということになります。あるいは、朝に気付いて、夕方には欲しいということになります。

 その時に、注文に応じて、一本の木材を遠方から持って行くことができるのか、ということになります。一軒の家の建築材を買い付ける工務店は、東京の、あるいは大阪の材木屋を切って、それでA県なりB県の製材所とつなぐわけですから、大工さんとしては一本の材でもA県なりB県の製材所から運んできて貰わなければならないわけです。けれども、木材価格百万円ほどの中で、たとえ一割の一〇万円安く仕入れられる仕組があったとしても、そういう大工さんの手待ちが四~五回あれば、もう一割安い値段なんて問題にならなくなります。大工さんが一日手待ち(材料がないために休まねばならないこと)をするということは、大工さん一日の手待ちではなくて、左官も困れば、電気屋も困るということで、一日、半日の手待ちがいろいろな職種へ悪い影響を及ぼす、それが建築というものなのです。

 それならば、ということで、東京なり大阪へどっかと店を構えるということであれば、それはそれでその面の補いはつきます。しかし、産地の人が店を出してくるということであれば、大阪なら大阪の商人になり切らないと、片一方の足は産地に置き、片一方の足は大阪に置いてということになると、前に説明したとおり、与信管理など商流の問題を十分に処理できないということになり失敗してしまいます。 現状をみると、産地が消費地へ乗り出す姿には、大阪なら大阪で腰をすえてやるというのではなく、ともかく遠くからリモートコントロールで、自分の所の生産される材を売るという姿勢しか見られないのです。A県の県産材がだんだん山の中で育ってきた、まだ出てくる量が少ないから、その少ない量を少しでも高く売りたいという気持、「末端まで行けば口銭が多くなるだろう」というその気持は分かりますけれども、そういうことであると、徳川末期、そして終戦直後に生じた歴史を三度繰り返してしまうことになりかねません。

 川下作戦の強化ということで、今後、国や県から流通関係への助成が強まり、各生産県の木材組合へ補助金が行くようになって、「県産材の売り込みをやってみよ、金の応援はして上げよう」といった制度が出てくるように思われますが、そこで一つ歯車を間違えると、先に述べた森林組合に製材所をやらせようとするのと同じ結果になるであろうと危惧しないわけにいきません。森林組合が製材所を設置する程度のことであれば、設備投資分がご破算になる程度で、まあ国が五〇%補助した分がゼロになる程度のことで済んでしまうのですが、流通へ出て損をするとなると、出した金だけの損で済まないのですから、屋台骨を動かすことになります。そのために本体である森林組合或いは木材組合が倒産する事態も考えられるわけですから、よほど慎重に考えていただく必要があります。森林組合が倒産すれば、保証している役員の個人資産まで差し押さえられることになります。

 繰返すと、流通の中には物流と商流とがあり、流通の中に占める各ポジションがどういうものであるかを知らないと、「得しようとして損をとる」ことになります。ですから、木材流通についてご指導下さる国や府県の方々も、この点を十分に念頭においていただきたいと思います。

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