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参考資料 下記は全国ログハウス振興協会 10周年記念にて テーマ 21世紀へのログハウス --環境保全とエンジニアリングの講演内容です。 講師は東京大学 農学部 助教授 有馬孝禮 先生


1.自然保護と資源生産の共存

 近年、生態系の維持あるいは保護といった言葉が多くみられるが、それは現状よりも悪くならないようにというニュアンスが強いようである。環境という言葉、とくに自然環境といったときマスメデアでは必ずといっていいほど、森林伐採による荒廃を写し出す。森林は伐採したら終わりという側面で捉えられることが多い。それは森林の重要さを認識させるのには効果的である反面、資源としての木材の重要な位置付けを曖昧にする役割も演じている。すなわち「壊された自然は再び戻ってこないという」という言葉が、「保護されるべき自然放置の生態系」と「生活資源生産のための伐採して更新する生態系」が共存、共生しなくてはならない現実を曖昧にしているように思われる。「この速度で森林破壊が進むと何年後に森林がなくなる」といわれるような地域、すなわち森林の更新がなされない地域の問点が、地球温暖化などの地球環境問題に取り込まれることが少なくない。しかしながら、それは主として先進諸国が起こしている、化石資源の大量消費による地球温暖化などの地球環境問穎とは次元の違うので、その地域の人々の生活、命の問題としてまず論ずべきである。また、しばしば人工造林の木材資源の利用も、伐採という行為に置き換えられがちである。その背景には樹木の生長に要する時間の長さ、すなわち森林の成長には時間がかかるのだというイメージがあり、樹木が生長に要する時間を森林面積で置き換えていることが意外と忘れられているのである。伐採をしないことを言い訳に、木材以外の材料を使う正当性を主張する例は少なくない。これこそ問題である。伐採された木材が都市に保存され、伐採されたところには再び森林が形成されるという、人工造林木のような世代交代や更新の必要性が認識されていないことが問題である。木材など生物資源でもっとも重要なことは、鉱物資源や化石資源と違って再生、更新、いわゆる世代交代という持続可能性を有していることである。鉱物資源や化石資源のような資源的な枯渇問題と基本的に異なるのである。世界全体の年間伐採量は全蓄積量の0.8%程度で、蓄積の年間増加量が3%程度であるので、この数字だけみるならば伐り過ぎではなく、蓄積は増えている。しかしながら伐り出しがきわめて困難な地域を含んでのことであり、我が国やヨーロッパなどの先進諸国の森林は増加傾向にあるものの、発展途上国は減少が著しい。発展途上国の全消費量の80%が生活エネルギーの薪炭用材として使われており、人口の増加に伴う地域的な極度の枯渇が今後も続くと指摘されている。熱帯林の減少面積と植林面積の比率は10対1ともいわれ、森林面積の確保と人工造林の果す役割が益々重要視されねばならない状況である。したがって我々が議論するときには、住宅などの資材としての木材資源の循環と再生と、熱帯多雨林など地域の人々の生活、命の問題としての森林面積の消失の問題とを常に明確にしておく必要がある。繰り返しになるが、環境保護と資源生産は共存、共生しなければならないのである。持続可能な生物、木材資源の利用という視点を明確にしないで、一切伐採をしないという行為に矮小化することは、人類の起こしている地域環境問題を避けていることに等しい。木材資源の位置付けを大きな循環とその内側にあるもう一つの循環でみることにしたい。


2.木材資源の利用と炭素収支

 日本の各分野のエネルギー消費から算出した年間CO2(炭素換算C)放出量は全世界の約5%に相当する3億tを越え、森林によるC02固定量の5400万tを大きく上回っている。重要な第一点は、国土の2/3を占める森林の固定をもってしても追い付かないエネルギー消費をいかに減らすかであり、とくに建設分野は資材生産で約13%(建築のみでは7%)で、施工、冷暖房など建設に係わる放出量を合わせると国全体の45%に達すると試算されている。第二点、は森林における固定量は適切な伐採更新することでこの量を維持できることである。木材は再生可能な資源であるとか、持続的供給の可能な資源といわれる。樹木は、大気中からCO2を吸収し、太陽エネルギーの力で樹幹内に主成分のセルロース、リグニンなどの炭素化合物として固定したもので、伐採された後も固定されたままで木造住宅や家具のような形で都市に移動してストックされている。木材や木質材料は樹木のように肥大生長することはないが、保管している状態すなわち炭素ストック状態にあり、最終的に焼却または腐朽などで大気中にC02として戻ることになる。一方、伐採された地に「伐ったら植える」という森林管理の基本、つまり正しい林業が行われていれば、新たな樹木としての固定が再開されることになる。伐採から焼却までの時間が長ければ(すなわち耐用年数が長い、あるいは解体材をCの保存された状態で再資源として利用される)、森林の樹木に成長する時間を与えることになる。木材を焼却する量が成長量を上回らないならば、大気中のC02は木材利用によるストックで減少の方向になる。木材資源が再生可能資源で、環境保全に対して極めてエコロジカルな資源であるといわれる所以はここにある。日本は国土の2/3に当たる2500万haが森林に覆われている森林国で、スギを中心とした人工造林木の日本の森林における木材蓄積量(成長量から伐採量を減じたnetの量)の増加はほとんど人工造林面積1000万haでのスギ、ヒノキ、カラマツなどの成長によっている。蓄積は大きく増してきており、大量伐期は近い。森林が耕地や牧場あるいは砂漠に入れ替わる競争関係にあって森林面積の減少が問題となる国々と決定的に異なるところである。しかしながら、このように木材資源という人間が作り、管理できる資源があるにも拘らず、1億㎡を越える木材使用量の75%強を外国産材に頼っているという現実は人口1人当たりの森林面積は小さいとはいえ、地球環境保全に対する姿勢が問われているともいえよう。それは輸入製品との価格格差や林業労働者の高齢化、人手不足による伐採、運搬など経営的な課題に止まらず、造林木の枝打ち、除草、間伐ができないことによって、森林そのものの活力の衰退が危惧されている。すなわち、住宅資材の生産で、国産材が外材に比べ単に価格が高い、量がまとまるという市場原理だけでなく、林業地域の活性化や地球規模の生態系保護や温暖化防止といった環境保全の視点に立った利用協力、展開が必要と思われる。我が国の住宅の構造別に生産に要するエネルギー消費による環境負荷を、面積当たりのC02発生量(炭素換算)について比較すると、木造住宅で約80kg/㎡で、鉄筋コンクリート造や鉄骨造などの1/2から2/3である。資材の製造エネルギーから予想されるように木造住宅のC02発生量はかなり少ない。とくに、躯体資材としての木材の占めるC02発生量はきわめて小さく、木造住宅に用いられる全資材からの発生量の6%程度であることが認められる。すなわち、木造にあっても他資材によるC02発生量がきわめて大きい。なお、木材の形で貯蔵している炭素量について、木拾いによると木造住宅では、柱や梁など木材の形での炭素ストック量は約50kg/㎡(床面積当たり木材使用量0.2m3/㎡で、木材比重0.5としCはその1/2)であることが認められている。解体消却したときに放出するC02発生量が約50kg/㎡になるので、それを加えても他構造と同等もしくは以下である。


3.もう一つの循環一耐用年数とカスケード利用

 木材や木質材料は建築物に使用されている間、炭素Cをストックしていることになる。また解体後の廃木材は、木質ボードや紙の原料のチップとしてカスケード(段階)型に再利用されれば形を代えて再びCをストックすることになる。ところで、日本において住宅として都市にストックされている木材は、炭素換算でおよそ1億5000万tである。これらが年々解体された時にゴミか、資源かが問われている。国際的な環境保全における日本の木材利用のあり方をみたとき、使い捨てに近いストックとしての短さとカスケード型利用の貧弱さは、木材利用の環境保全上の優位さを著しく損なっている課題である。
 我が国の戦後の住宅生産はスクラップ・アンド・ビルドを繰りかえしながらストックしてきた。総住宅数が世帯数を上回って久しく、除却は増加の傾向にあって、それだけ解体材の処理、利用が大きな問題となっている。最近の調査によると、除却までの年数は木造住宅は平均で約25年で、他構造の住宅が約20年になっている。今後、新設住宅着工を年間120万戸程度で、耐用年数の平均を25年として推移予測すると、我が国で必要とされる総住宅数約4000万戸を維持できる。しかしながらそれは、建設する一方で120万戸を解体することも意味している。このようなスクラップ・アンド・ビルドから脱却し、総住宅数を維持しながら資源・エネルギーの投入を減らし、廃棄処理の負担を軽減する手段は、耐用年数の増加である。耐用年数を35年にすることで総住宅数を維持しながら新設着工戸数を現在の70%程度に減らし、解体処理の負担も徐々に軽減できる試算もある。
 解体材を再資源として活用するカスケード型の利用の意義・効用に関して、解体、カスケード利用、建て替えという一連の行為におけるエネルギー、資材投入などの移動をC保管とCO2(C換算)放出について産出すると、それはバージン材の使用量を抑え、解体材などの再利用によって廃乗物による負荷を軽減することが認められる。一般に解体材を用いて木質材料に転換する時、原料形態が木材素材から離れるほどエネルギーの消費量は多くなる。しかしながら廃棄の最終処理である焼却に伴うのCO2発生の大きさから考慮すると、再利用に要するエネルギー負荷はかなり許容できる。化石、鉱物資源のように、そのリサイクルが資源枯渇、エネルギー消費の軽減、廃棄物の生態系対策にあるのに対し、木材の再利用はストックされていた炭素の焼却に伴うCO2の発生を抑えることに重点があるといえよう。木材は再資源化、再生利用への道がともあれ用意され、最終的に埋めたてするときも焼却によってほとんど無害な灰分の量に縮小され、生態系への影響が少ない。しかしながらこのように基本的に生態系のサイクルにあり、将来に渡っても生活資源としての共存できる可能性をもつ木材ですら、旺盛な人間活動の前で廃棄物処理は大きな課題となっている。木質廃棄物についてはその抑制、再利用、処理は実行しようという立場に立つならば技術的に可能であり、その地域の街づくり、環境整備にどのように還元できるかという問題といえよう。別のいい方をすれば資源の溢れる我が国の現況で、廃棄物問題を市場経済あるいは効率で諭ずることは環境保全の問題を回避していることに等しい。耐用年数と解体廃棄材のカスケード利用の視点を整理すると以下のようになる。
(a)建築物を解体しない
(b)解体するまでの耐用年数の増加
(c)解体後、原形に近い形で再利用する
(d)カスケード型利用は耐用年数の長いもの
(e)焼却は最低でもエネルギー利用に振り向ける
(f)炭化は安定化した炭素保存となりうる
(g)単なる償却は可能な限り避ける


4.住宅におけるエンジニアリングウッド

 我が国では世界に類をみない多彩な木造建築工法が存在しているが、その潜在需要を目指して世界の木材が、そして新たな木質材料が多く紹介されてきた。それをもってエンジニアリングウッド(またはエンジニアドウッド〔工業化木材〕)として紹介されてきた。ここで重要な点はエンジニアリングウッドは単板積層材、集成材、I型複合梁のような工業化木材、あるいは海外からの輸入木質材料を指すのではなく、エンジニアリング(「科学をその時代、社会状況に適合させること」に重要な意味がある)を対象として設計、使用されたときに意味をもつことである。したがって、国産材の丸太や製材品であってもエンジニアリングを対象として作られ、区分して使用されたときには立派なエンジニアリングウッドになりうる。現在一般にエンジニアリングウッドといわれる対象の木質材料は、木材のもつバラツキをなるべく狭くするために等級区分された製材品や、製造管理された集成材とLVL(単板積層材)である。構成する材を選別することと、管理された製造条件下で複数枚を組み合せて、強度の変動幅、すなわちバラツキを小さくしたものである。強度の平均値は構成する原料木材とさほど変わらないが、バラツキを小さくしたことによって下限値が高くなる。したがって設計に用いる数値に信頼性が増し、安全率を多く見積る必要がなく、合理的な設計が期待できることになる。これはさらに材料力学的な理論にもとづいた自由で合理的な断面、たとえばHやⅠ型梁、トラスなどはさらに一歩進んだ材料として可能性が当然出てくる。それは、狭小の床面碩における可変自由度や大スパンを可能にする高い剛性の木質材料やトラスなどの部材であり、まさに目的指向のエンジニアリングの領域といえよう。もちろん、大きな断面、長大への対応、防腐など耐久性の付与が重視されるであろうが、耐久性を支配する耐久設計、維持管理との連携なしにはその合理性は半滴することも十分留意すべきである。多様化するであろう住宅から予想されるエンジニアリングウッドの対応をみてみたい。


5.構造計算への対応

 エンジニアリングウッドとはそもそも何か。俗ないい方をするならば、「あなたが売ろうとされている木材の強度はどれぐらいですか?」「あなたが使おうとしている木材はどれぐらいの強度が必要なのですか?」である。
 木造住宅三階建は年度で1万棟余が建設されているが、小屋裏利用三階建、総三階建、タウンハウス、木造三階建共同住宅(木三共)といった木造住宅をとりまく法的制限の緩和、あるいは需要拡大や住宅生産における経済的合理性の追求という展開をしてきた。木造軸組工法、枠組璧工法、木質パネル工法のように石膏ボードなどによる被覆による耐火性付与に加えて、大断面木造が参入したことによって準耐火構造における燃えしろ設計の位置付けが明快になった。
 三階建として要求される構造計算、準耐火構造の燃えしろ設計に対応する許容応力度、断面設計はエンジニアリングウッドに更求される中心的なものである。そのために木材は目視や機械的に強度等級区分することで品質の担保、バラツキをなるべくおさえる必要がある。三階建木造住宅における居住空間の拡大は大スパンや断面寸法の多様化を要求し、必然的に等級区分でも新しく制定された「針葉樹の構造用製材規格」のヤング係数と強度のセットになった機械的区分の方がなじみ易い。きわめて重要なことであるが、エンジニアリングウッドは強い、弱いが問題ではなく、どれぐらいなのかわかっていることに意味がある。


6.施工合理化と管理

 我が国の建設工事に目を投じると、職人の人手がかからないための施工法と資源を無駄にせずに、しかもどのように維持するかの管理体制がますます重要になってきている。そのためには価格が安く、強度が確保されていれば良いというだけではなく、使い易さ、ゴミがでないといった、時代、社会状況への対応というエンジニアリングの領域が拡大してきている。たとえば乾燥材であることは寸法精度に伴う施工精度や施工効率に有利であることを意味するし、乾燥に伴う施工や維持管理のトラブルが少ないなどである。縦継ぎ材(フィンガージョイント材)が価格は製材よりも高いにもかかわらず、カナダの施工現場では好まれるといわれている。原材料の有効利用もさることながら施工という面から認識され、縦継ぎ材が枠組璧工法のたて枠材としてJASとして制定され、許容応力度が通達されている。
 TJIはトラスジョイスト社のⅠ型の複合梁の商品名で、フランジにLVL、ウェッブに合板またはOSBが用いられている。Ⅰ型の複台梁にはフランジに縦継ぎ材を用いたものもある。縦継ぎ材とおなじく、製材よりも反り、狂いなどによるロスの少なさ、施工後の乾燥に伴うトラブルの少なさに加え、長さの自由度、釘鳴りがしない、軽く持ちやすいという現場からの評価が高く、北米ではかなりのシェアになっている。
 在来工法木造住宅の分野ではプレカット加工が多くなってきた。機械加工は木材の寸法精度を要求し、木材の乾燥度などは工場の生産能力を支配すると同時に施工現場の反り、狂い、割れなどの軽減に欠かせない重要な条件である。また今日的な問題として取り上げられる建設現場での廃材、ゴミの軽減は、プレカットとしてのメリットになっている。それは端材、残材が工場にあり、建設現場にあるよりもはるかに再生資源として有効に働くことが期待できる。このようにプレカットは、在来工法の大工技術による手加工を、単純に機械加工に置き換えてきた導入当初から脱却し、集成材やLVLのような長尺を生かした寸法の整理、カット数の軽減、他部材との取合いの簡素化などを考慮した材料選択や改良工法への移行がはじまっている。このように新しい木質材料が設計の自由度、構造、防火性能への対応だけでなく、施工管理という面からも注目されよう。


7.国産材の住宅用の構造材料としてのガード固め

 「スギ材を建築物の構造材料に」といったとき、イメージするものは必ずしも同じではない。在来工法木造住宅用の柱、母屋材あるいは垂木などの構造材はいまでも主要な建築資材である。現在、在来工法木造住宅の梁、桁はほとんどペイマツだが、中目並材のスギを使ってもらいたいという期待も少なくないし、地域によっては一般的でもある。在来工法木造住宅の工業化(プレハブ化)でもあるプレカットでは、寸法精度を求め乾操材の安定的な供給量を期待しており、供給する側も定常的儒要があるであろうという期待がある。したがっていかに効率良く、生産性を上げるかが課題で、国産材産地レベルでは「製材品の大量安定供給」には「原木の安定的確保」という視点に立つことが多い。また製材業と建設業間では乾燥などに関する経費負担をどこがどれ位担うのかという点に論議がある。
このようにみると、住宅生産における木材供給の大宗は寸法精度、乾燥、安定供給(量的質
的)、そして価格競争におけるガードを固めることにつきよう。したがっ在来工法木造住宅
では特別な構造的な試みがない限り、「針葉樹の構造用製材の日本農林規格」の強度等級
区分に関してはさほど論議になりにくい。以下に住宅以外の構造物を対象とした構造材料
としての強度等級区分に期待される展開をみてみたい。


8.地域活性化の主役としての国産材

 新しい構造形式の木造建築物では構造用木材は従来の製材品とは違う意味をもっている。すなわち、木材が他の工業材料と比較されたとき、天然物であるがゆえにバラツキのある材料、信頼性が十分でないのではないかという危惧に対して構造材料としての答えを具体的にしめす必要性がある。それが強度等級区分であり、「針葉樹の構造用製材の日本農林規格」、いわゆる新JASの必要性でもあった。とくに、目視的区分に加えて機械的区分が導入されていることが大きな意味をもっている。
 スギを公共大規摸木造建築物にという声は地域活性化事業としてしばしば登場してきた。製材品、丸太あるいは集成材などの、構造材料としての強度等級区分とその量的な対応が重要課題になることが多い。とくに、住宅への構造材料と大きく異なる点は、(1)ある品質の材が大量に要求される、(2)需要は不定期であり、しかも短期間での対応が要求されることである。一度の建築で1000m3や2000m3を必要とされるが、しばしばこれに対応できないことがスギの使用を断念する結果となったことも少なくない。国産針葉樹材の製材や集成材などへの利用が論議されるとき、必ず外国産針葉樹との価格差と、その量的質的まとまりとしての劣勢がいわれる。しかしながら外国産材と比較したとき、国産材の本来有利であろうとみられる特性は、林業、立木あるいは丸太が身近にあり連携がとりやすいこと、運澱および情報伝達距離が短いこと、地域単位にみた協力関孫があるならば小ロットでも対応できることである。これらをべ一スにした地域の活性化のためのプロジェクトや行動は、グローバルな省エネルギーやそれに伴う環境保全という点からみるならば好ましい姿であり、地球環境保全の合言葉「Tinking globally,acting locally」のacting locallyの重要な一歩に他ならない。したがって、単に木材や木質部材の強度あるいはその強度区分の適正化だけでなく、新しい木造建築物の需要拡大という共通目的にむけて生産、供給流通、利用における強度等級区分を有効に機能させる必要がある。


9.構造材料原木としての丸太選別

 国内で生産されるスギを丸太区分し、大まかな用途の振りわけをすることは輸入製材品との競争中で重要な領域である。丸太でえられたヤング係数はラフな区分であったとしても、現在の強度に対する無区分の集荷のリスクに比べれば用途区分としての有用性は極めて大きい。あるヤング係数の範囲の製材品や集成材ラミナに適するスギ中目並材を選別、保管することは、量、質のまとまリヘの対応の重要な試みであろう。丸太と製材、ラミナの相関性をもとに最終製品や用途区分の決定をするとともに、それに応じた木取りや乾燥および保管、集荷、情報などの総合的なシステム化に進むことも期待できよう。木材の構造材料として適正利用をはかるためには、性能を確保するための技術を可能な限り木材生産者である山元に近ずけることであり、相互脇調への期待は大きい。そのような時代を自ら創るのか、待ち続けるのかそれが問われている。


10.住宅の耐用性確保への転換

 近年の我が国の住宅解体までの平均耐用年数は20~25年であるが、それは住宅が朽ち果てたというような物理的な耐久性が理由ではない。耐用年数を支配しているのは住宅の物理的な耐久性の欠如ではなく、住まい手にとっての利便性の欠如、設備の陳腐化にあることである。もちろん物理的耐久性の欠如がないわけではないが、実態からみると加工や施工の初歩的なミスを除けば、使用者の使い方あるいは手入れの仕方などの維持管理に大半の要因がある。すなわち、木材の耐久性に問題があるのではなく、木材を使用するときの耐久的配慮のなさに問題がある。
 耐用年数を伸ばすためには物理的な耐久性と機能の耐用性の確保が重視されるようになってくる。とくに建築物は短時間の消費材ではないので、自分が単純に満足できれば良いというものではなく、次代に受け継ぐためのルールや共存するためのルールが必要になってくる。すなわち耐用性の高い住宅を生産、供給、維持管理するシステム、たとえば図4に示したCHS(センチュリーハウジングシステム)のような基本体系をいかに展開すべきかである。CHSの提案している基本的要件は次のようになる。
(1)物理的耐久性と機能的耐久性の両者が調和がとれかつ優れていること
(2)家族変化に伴うニ一ズの変化に対応するための住宅計画上の可変性が適切に組み込まれていること。
 ここでいう物理的耐久性とは、材料や部品が腐ったり壊れたりして使用できなくなることを指し、機能的耐久性は生活の変化に伴って使われなくなってしまう、俗にいうと古臭い、不便といったものを想定している。そして、躯体や各部位ごとに耐用年数に相当する年数型設定モデルが提案されているが、この年数のもつ意味で重要な点は、「何年もつ」という耐久性を保証するものではないということである。それは「何年もたすための仕組み(システム)を有している」ということを意味する。すなわち、維持管理はどのような役割分担になっているか、補修交換ができるようになっているのかなどである。
 近年の木造に係わる推進力は、木造建築物の規制の緩和など行政的な扱いの変化によることが少なくない。準耐火構造は木造軸組み工法、枠組璧工法、木質パネル工法の木造住宅にも、単純に火災に対する評価だけでなく、耐用年数にも関連する償還年数や火災保険料率にも明快な差異をもたらしている。とくに公庫融資の体系に示された準耐火に代表される耐火性区分と、償還期間にみられる耐久性区分の視点はその中心的なものである。社会資産としての良質なストックによって地球環境保全のための資源・エネルギーの浪費を抑え、廃棄リサイクルヘの負担軽減をもたらすことが期待されているといえよう。住宅の解体除却の実態からみるならば、まさに英断である。それは新築住宅に期待してきた従来の住宅生産体制から、維持管理体制への移行、脱却を目指しているといえよう。とくに木造の共同住宅への取組が環境保全全般にわたる広い意味で重要となることは容易に理解できよう。このような耐用年数の増加は狭小の床面積における可変自由度や大スパンを可能にする構造を要求するであろうし、高い剛性の木質材料やトラスなど目的指向の資材の領域拡大を生むであろう。それは大きな断面、長大への対応、防腐など耐久性の付与と並んで、耐用性を支配する耐久設計、維持管理と連携が重視されることを意味しよう。そのとき社会全体との接点で留意すべき点をあげるならば次のようになる。
(a)住宅などの耐用年数の増加をはかリストック型へ移行することは、維持管理体制を有した住宅の供給によって新設着工を抑え、同時に解体を抑えることになる。それに対して経済の活性化を鈍らすという論も出てこよう。しかしながら、その論こそ問題であり、活性化の視点を耐用年数を増すために維持管理、あるいはリサイクルに転換していく姿勢こそ要求されている。
(b)カスケード型利用のしやすいような設計、資材、工法の選択(プレサイクル)の仕組みにかえる。
(c)耐用年数の増加を前提とする以上、機能性の向上、維持管理は必須である。そのときリース、レンタルのような仕組はモダニゼイションを行いながら、維持管理、解体除却における有害物質の管理回収、リサイクル、カスケード型利用などを可能にする方法となりうる。
(d)「古いものが価値がある」と評価されるようなものを供給する。同時に資源を尊重するものを認める体制と教育啓発を行う。


11.機能性重視の危険性と環境共生

 エコロジー建築(環境共生建築)のなかで居住者の健康に係わる課題は大きい。それは使用される材料にあっては、使用時および廃棄後に問題になる有害物質であり、広くは先に述べたエコマテリアルの要件に集約される。我が国のアスベスト製品、塩化ビニル製品、グラスウール、ホルマリンなどの規制、管理への対応は著しく低く、ある一面的な効率、機能性重視の産物でもある。創り出される居住環境についても、一つの機能性重視が環境負荷や健康衛生上の問題を引き起こしていると思われる例はあまりにも多い。
 木造住宅の多様化は居住環境、住人の生活する上での対応の多様化も意味する。高気密、高断熱、遮音のような機能性の付与が重要視されるようになってきた。しかしながら高気密、高断熱は扱いを間違うと換気不足、結露、かび、ダニといった危険と隣合せである。また、小児ぜん息、アトピーなどに関係するダニやほこりの発生が住宅の床材料に関係するといわれだしてから、木質系のフローリングがにわかに注目され、高級感や自然志向の順風下で遮音性能を高めるという目標に向かって熱い競争がなされている。快適で静寂な環境を求めるという都会の生活者の要求が遮音のトラブルを顕在化し、L55さてはL50と数値の一人歩きの感がしないでもない。一方、視聴覚情報を遮断した環境では、脳内のアミン神経系の機能障害に起因するうつ病や分裂症が導かれることが精神医学分野で問題となっている。とくにこれらの脳の異常が環境中の騒音のようなマイナス要因で生じるのではなく、環境中のプラス要因の不足から生じるのが注目される。とくに木造住宅の共同住宅にあっては遮音性能向上に対する要求は強いが、あるレベルの確保は必要としても、成長過程にある子供の生活環境として過敏な人間を作らないためにも、「ほどほど」も重要で、設計者、発注者の見識が重要になってきている。とくに住宅の機能のみを追求するのではなく、住まい方が重要であることは十分認識されねばならないであろし、共同住宅にあっては住まい方のルールが人間性の形成、教育に果す役割は決して少なくない。
 高気密、高断熱は人間が外気と分離して生活するということであり、地球上の生物としての調整機能を知らないうちに失ってきていることになりかねない。高気密、高断熱は暖房、冷房の負荷軽減の手段、すなわちC02放出量の軽減としては間違いではない。しかしながら注意しなくてはならないのは評価が冷房や頓房などのエネルギー効率といった比較的分かり易いものに片寄りがちであり、ともすれば現在の生活を前提としたエネルギー使用自体が本来環境保全で問われていることをわすれがちであることである。暑い時は汗をかけば良いとか、寒い時は体を動かせば良いといった自然共生型の生活は評価しにくい。すなわち、人間の欲望の限界やあるいは共存のための耐えうる限界などの設定が難しいことが多いので、評価が不明確になりがちである。環境共生住宅の自然通風や換気、厚い板などでの断熱、庇あるいは樹木による遮熱、太陽熱の利用など、いわゆるパッシブな環境調和は都市部では困難な面があるが重要な課題である。かつての我が国の風景であった廊下のひなたぼっこや夕涼みを可能にする開放型居住空間への課題は、近年進められてきた設備に頼る快適性追求との隔離ではなく、状況に応じた接点を求める視点が必要かもしれない。
 ここ数年、各地で生じる真の暑さと水不足が、冷房が冷房を加速させている現実と無関係であるとは言い切れまい。また、アトピーや花粉症が人間自身が生態系の一部を変えてきたことに起因していることは間違いなさそうである。いずれにしても今我々自身が問われているのは「ほどほどに」であるように思われる。とりもなおさずそれがエコロジー、エコシステムの基盤であるからである。


12.都市にも優良な森林を

 地域活性化の主役としての国産材が本来有利であろうとみられる特性は、林業、立木あるいは丸太が身近にあり連携がとりやすいこと、運搬および情報伝達距離が短いこと、地域単位にみた協力関係があるならば小ロットでも対応できることである。これらをベースにした地域の活性化のためのプロジェクトや行動は、グローバルな省エネルギーやそれに伴う環境保全という点からみるならば好ましい姿である。
 建築物や街はある大きさをもち、動けないものである。したがってそこに永続的なあるいは再生可能な資材がそこにあるならば、本来地域的なものである。したがって単なる一業者の経済的な評価のみで論ずべきでなく、地域で各々の利益を分け合う信頼関係が必要である。それが地域の活性化につながり、環境保全に寄与する基本であることは近年の流れを冷静にみるならば容易に理解できよう。それこそ地域環境保全の原点である。
 我々が使用する資源には本来「持続的な生産ができる」という重要な条件がある。幸に
してスギをはじめとする国産材ははその条件を満たしうる可能性がある。先祖からこれか
らの世代へ受け継ぎ得る最大の資産でもある。それを活かした資源・環境保全をめざした
施策や街造りは共存・共生の原点である。木造建築をひとつの森林と見なした「都市にも
優良な森林を」は我々ができる設計、材料、施工および維持管理の共存、共生によってな
しうる身近な地球環境保全の原点である。
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