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畏友故中川藤一兄を悼む

安田良一
「藤(とう)やん」これが兄の学生時代の愛称である。

この言葉を思い出す時、真摯、生真面目な温顔の兄の学生服姿が瞼に浮ぶ。

これは私だけでなく学友の多くがそうであると思う。

兄とは、入学当初は学部も異りただ面識程度にすぎなかった。

ところが一学年の夏季休暇の時であったと思う。

兄の故郷御坊に近い海辺の村塩屋だという所で数日を過したが、丁度帰省乗馬中の兄と出会い、それからは親しく話し合うようになった。

学生時代の兄は仲々の世話好きの上、リーダーシップにも秀れ、私心なき行動で友人間の信望は特に厚かった。

異なった学部、学友会活動(兄は乗馬部、キャプテンとしても活躍)の関係もあって残念ながら特筆するようなエピソードを私は知らない。

ただ、談笑のときのおだやかな温かさのある話し振りだけが印象に残っている。

卒業後は旬日ならずして兵役、戦後は同窓の集りで旧交を暖めたもののお互いに仕事の関係もあり年一回位、それでも会えば人柄、暖い気配りは昔と少しも変らなかった。

工場団地が設立され要職についてからは、私が団地近くに居住している関係もあって、話は必ず団地の環境整備や、地域の環境アセスメントが一つの話題となり、団地発展への兄の熱意をひしひしと感じたものである。

兄の会社の門前東南角に「初心忘るべからず」の碑がある。

私が時折行く病院のバスの道筋に兄の会社があり、通院の都度この碑を車窓より見ては兄の人柄と団地への尽力振りを思い浮べ活躍を祈ったものである。

偶々一昨年夏、経営者研修、事務局の事でお手伝いすることになってからは、しばしば話合う機会をもつことになった。

会えば話題は当然団地関係の事が中心であるが、その尽瘁ぶりには執念をさえ感じられ感銘を受ける事が多かった。

最後に話し合ったのは昨年の夏であった。

その時も団地の今後の展開構想について元気で楽しそうに抱負を話してくれたことを思い出す。

それから月余にして、悲しい乎、志半ばにして急変召天された。

樹木をこよなく愛された兄、その関連の道一途に家業に、業界に生涯を献身され高い評価を受けたことは、「兄又もって瞑すべし」ではないかとも思うのである。

ここに、謹んで、畏友故中川藤一兄の御霊に拙文を捧げ哀悼の敬意を表するとともに、御霊安かれとお祈り申し上げる次第である。

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