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花竹庵の蹲踞

徳力富吉郎
京都の洛北花背村に私の小山荘がある。

名づけて花竹庵と言う。

是れは表千家の先代即中斎が再三お越し下さり、其の節丁戴した短冊に雨治花竹凉の字句があり、村の名花背の花があるので此の山荘の庵号に頂戴したいと申し出たら早速御承諾下さり、四五日内に花竹庵なる字を丁戴した。

私は喜んで、是れを横額に彫り庵のぬれ額として今も玄関をはいった所にかかげている。

是れで庵号が出来たのであったが、今度は蹲踞がほしい、此処で中川君の登場である、岸和田市にある古い製紙工場に昔の大石の臼が残っていた沢山である。

昔の製紙工場は此の直径一米もある大石臼に鉄の棒を通して横にまわしバルプに粉砕していたのであった、が今はもうもっと完全な粉砕器が出来てこんな大石の臼をまわす事はない。

其処で沢山の大石臼は割られて石垣用の石材となり、工場の堺の塀の下等に使用された。

中川君が是れを見つけて、製紙用の臼であれば版画の紙と通うと知らせて呉れた。

私も物好きである、其の石臼を一個丁戴しトラックに乗せて花背村迄持って来た。

大変である、起重器のついたトラックである。

村迄ようやく着いたが私の山荘の入口の小川を渡る時、重量で村の橋をこわしてしまった。

橋は私の費用で直した。

ようやく家の前に着き早速臼を据えた、大変な蹲踞である、底に穴を明け、田圃用の用水を引込んで下から水を吹き上らせ、水は一杯になると四方にあふれる様にした。

立派な蹲である。

かくてもう二十年にもなるか、大臼の蹲踞は山荘の入口を守っているし、水は流れ出ているし、夏は水面にビールをひやし、西瓜が浮く、水は留度なく地中から涌き上り、紙の臼はすばらしい眺めとなって我の山荘の玄関を守って呉れている。

中川君も見に来て呉れた。

娘さん海堀家へ嫁いだ人も来て呉れた。

このお嬢さんは、京都の学校に来ていて、時間があると私の家に来て、墨絵の稽古に励んでいた。

中川君、君にお世話になった石臼は永久に花竹庵を守って呉れている、有難う。

(平成元年二月七日於花竹庵)

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