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中川君と馬の話

西浜武夫
何より先にお悔み申し上げます。

私は丁度病気で足が悪く歩く事が出来なくて、御葬儀にもお詣りする事が出来なくて残念でした。

謹んで御冥福をお祈り申し上げますと共に御詫び致します。

私と彼は中学五年間共に学んだのですが、一番の思い出は昭和二十一年の八月末頃と思いますが彼が私の村に海産物か何かの入札に来た時でした。

道で突然にお逢いしました、私も七月に復員した時で内地の状況や同級生の近況も何も知りませんので色々立話しをしている内に、当時食べる物のない時でしたので、鮑でも取りに海へもぐろうかと云う事になり、すぐ私は道具を揃えて磯に行きフウフウ云いながら二人海にもぐりました。

取れた取れた沢山の鮑が取れました。

早速私の家で料理をしてもらって配給の少い酒をくみ交して食事をしながら学生時代の話や軍隊の話に花が咲きました。

「君は馬に乗る事が得意だったなあ!よく遠乗りをうちの村までして来たなあ。

乗馬姿が仲々格好が良く当時の女学生等の憧れの的だったね、よく『あの中学生どこの人、何と云う人』と聞かれたものだ。

君は馬と全く反対の顔だのにね、何で馬が君を好きになるんだ」と聞くと彼は「西浜君、馬はねえ、乗る人の気持を良く知っているからね、親の様な気になって可愛がり親切に念入りに手入をすると良くなついてくる。

又反対にきつくする事も大切でね、馬の考えている事を先に感じ取る事だ」と云う。

私も軍隊で馬を使った事があるので同感でした。

又其の当時から「これは人間社会にも通じる事だよ」今思ってみると、其の当時から彼は事業の上でも、馬術の方でも各種団体の役職を次々と無難にこなしたのは、その時の話しを実行したからと思います。

私も各種団体の役職に就きましたが、仲々実行出来なくて困りました。

彼の実行力に頭が下る思いです。

二十一年の二人で話しをした事は今は一番懐かしい思い出です。

合掌

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