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弟藤一の思い出

橋本峯子
弟は小さい頃からじっとしている事がなく、小まめに動き廻ってばかりいましたので、父が一分間じっと座っておればほしいもの何でも買ってあげると云っても、なかなか座っていることが出来ない子でした。

弟が幼稚園位時、祖母を中心として、父の姉妹お嫁さん達七人と弟で那智山へ旅行した事がありました。

田辺から新宮迄は舟が小さいので動き回る事が出来ずじっとして居るうちに肩をこらして歯ぐきが腫れ、おたふく風邪の様に「ほっぺた」を腫らした事があって、旅の話をする度にその事が話題になっていた程です。

又小学校低学年の頃、尋常小学校を卒業してすぐ寒川村から来ていた店の子が、家から履いて来たわら草履を眺めては涙を零して、帰りたがっていました。

それで母はその子にも自転車に乗る稽古を、さしてあげたかったのでしょう、自転車の練習でもして遊んで来なさい、と云われましたので、私と弟と三人で何日か近くのお寺の境内で練習しました。

三人共乗れる様になりました。

弟は喜んで町中を端から端迄、自転車で乗り廻しました。

父の友達が藤ちゃん何の用事があるのか知らんが自転車の後に、傘を積んで、南から北へと毎日走っていると云って、笑っておりました。

又関西大学時代、小阪の私達の新居でしばらく下宿していた事もありました。

結婚して大阪へ出てからは忙がしく、弟に会うためには朝の出勤前に家に行かないと会えませんでした。

会社へ出勤する時、何回か私も一緒にのせて貰いました。

車の中で手帳を出して、一日のスケジュールを見、また本や新聞を読み、良い事が書いてあると切りぬき、書きとめたりしていました。

本や歌など書いていましたが、こんな時間を利用しているのだと感心した事があります。

私は主人が戦死していましたから、いろんな事で弟に相談にのってもらいました。

健介、昭子の学校、就職、結婚、家を建てる時には土地の選択。

そのおかげで今は閑静な所でゆったりと、老後の楽しみに果物、野菜、花いじりなどの出来る空地もあって、結構楽しい余暇を、過す事が出来て感謝しています。

健康だと思っていた弟と、こんなに早い別れがあるのなら、もっとしげしげと行って話し合っておけば良かったと、残念に思います。

しかし生かされている間、自分に与えられた仕事に、一生懸命励み、自分の出来ることは思う存分して来た弟は、充実した人生を送ったと思います。

弟の好きだった聖句を添えさせて頂きます。

いつも喜んでいなさい。

絶えず祈りなさい。

すべての事について感謝しなさい。

「テサロニケ第一の手紙五章十六節-十八節」

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