木材流通

第10章 時代の流れを見る―60年代はデザインの時代、感覚の時代であり、木材業界にとっては連合の時代である

30年代の素材の時代から60年代のデザインの時代へ

時代の流れについて、私たち木材業者と近いところにある建築業者はどう見ているでしょうか。研築の住宅で有名な小堀住建の小堀社長は、昭和三〇年代は金融の時代であって金融をつければ住宅を売ることができた、四〇年代は土地の時代であって土地がありさえすればともかく住宅を建てて売ることができた、五〇年代は技術の時代であって商品力の高い住宅を建てる技術が住宅建築・販売業者に求められるようになった、そして六〇年代はサービスの時代であって、終わりよければすべてよしではなく、設計から施工管理、アフターケアに至るまでのサービスが十分でなければ、顧客から相手にされなくなる時代だ、といっています。

 同じように木材業界の立場から時代の流れを見てみると、昭和三〇年代は素材の時代、いわゆる山林家が非常に儲かった時代、昭和四〇年代はメーカーの時代、つまり製材所も合板メーカーも二次加工メーカーも、ノコギリ不足で儲けた時代であったと思います。四〇年代後半には、午前と午後と一日三回くらい木材の値段が上がるというような経験を数ヵ月間続けて味わい、ノコギリ不足という問題が起こったほど、製品メーカーが儲けた時代でした。そして、五〇年代はどういう時代であったかと言うと流通の時代であった。長期にわたる受注を受けていても、木材の仕入れ値がだんだん下がってきてくれるので、「あんまり儲からん」と当初受注した時は思っていたのに、帳簿を締めてみたら、割合儲かっていたという時代になっていた。ですから、製造部門からメーカーがどんどん流通部門に入ってくる。昭和四十八年、四十九年頃からみると、製材工場は二五%減っているけれども、流通関係の業者数は逆に五%も多くなっていることも、やはりそういう時代の現われではなかったでしょうか。 では、昭和六〇年代はどういう時代になるかと考えてみると、いままでの木材業界の動きと、先ほどのダイエーの中内社長のレスの時代、田辺経営の田辺社長のゼロの時代という話しとを重ね合わせてみると、サービス時代、デザインの時代になっていくのではないかと思います。ゼロの時代というのは、結局、感覚の時代、五感の時代であり、将来的には哲学の時代、宗教の時代というところにまでなっていくのではないかという人もいるわけですが、木材業においても感覚というものが大きなウエイトを占める時代になってくる。昔から使ってきた木材を商品として現代に戻してゆくのが、これから私たち木材業界の務めであるわけですが、昔のままの恰好で戻すのでなくて、それに現代のナウイと思わせる感覚を盛り込んだデザイン、そういうデザインをくっ付けないと、六〇年代を乗り切ることはできないのではないかと思います。

 別な面から言うと、増改築というと住宅にのみ目が向けられ勝ちですが、木造戸建住宅のみでなく、マンションなどの集合住宅内部の改造・模様替え、サービス業者・流通業者の店舗改造等にも目を向け、アメリカのリモデラー(造作改造業者)のような方向にノウハウを蓄積してゆく必要があります。リモデル業者は、ただ単なる大工仕事、左官、建具、壁紙などの業者のコーディネーターだけにとどまらず、インテリアデザイナーであり、また住む人の身になって実際に住みながら衣替えする時の物的移動による心のイライラまでも考えることができる人であり、かつ一番大事な採算性、追加工事の施主との了解事項まで解決・処理できる能力のある人の養成が一番大事なこととなってきます。そうしたことのできる能力のある社員を持ち得る会社は、当分こなしきれないほどの仕事量を確保することができるはずです。

 新しい木材需要を開拓いていく場合には、国産材が大半の供給源であった昭和三五年以前に、木材を沢山使ってくれていたものは何だったのか、現在木材需要は落ち込んでいるが、これを現代風に変更し、現代人の不満を解消して新しくナウイものとして再び生き返らせるものはないのか、と考えてみる必要があるのではないでしょうか。時代とともにいろんな木材利用部門が減ってきています。しかし、それぞれ同じ用途でも、現代風に一般大衆の好みに合う方向に進めてゆくならば、一度使ってくれていたものだけに、一番早い需要開発につながるのではないでしょうか。その意味で、木材巻き返しのチャンスは、私たちの足下に在ると言えます。

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