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木材流通

第9章 国産材時代を切り拓くために

規格の統一により、見本売買の道を

最後に、流通をどうすべきかという点についてですが、これから同じ寸法の国産材が大量に出てくるということを踏まえて、木材市売市場の展示・配列販売という方式が変革されねばならない。 木材市売市場は大阪で三百年の伝統をもち、戦後、東京でも始まり、それから全国に普及するようになりましたが、市売市場のそもそもの出発点は買方が中心になって組織したものです。すなわち、産地に木材を買いに行く時間がない。だから、支払いは全員で保証するから、市売問屋に木材の買付けに替って行ってもらおうという発想ででき上がったもので、与信管理がうまく行くということ、つまり債権が安全であるということ、買方が中心であるということ、ここに大阪で発祥した木材市売市場の原点があったと言えます。その後、とくに終戦後、問屋の方に力がついてきたということですが、発足したときは小売屋に力があって問屋に産地に買いに行けと言って支払いは保証したわけですから、売った木材の代金については絶対に取りはぐれはないということが原点になっており、したがって当初の市売市場の方がシステムとしては理想的であった。また、国産材には節物もあれば無地の物もあるので、一本一本の現物を見て取引をするという必要があった。したがって、今日まで木材市売市場は栄えてきたのだと思います。

 しかし、ここへきて市売が斜陽になってきた。それはなぜだろうかと考えてみると、市売市場でいちいち配列しなくてもよい材までも配列しているところにその一因があるのではないかと思います。一方無地とか二方無地とか三方無地とかは、いわゆる?単価の高いものだと、同じ無地といっても色合いとか目合い(目の幅)によって値段が何万円も違うわけですから、当然自分の眼で確かめて買わなければならなくなり、したがって現在採用されている材の配列方式は、そうした材の取引においては必要になりましょう。けれども、節は三つあろうと四つあろうとかまわないという、いわゆる並材の一等品とか二等品は、規格さえきっちりと守られているならばわざわざ木材市売市場の土場まで足を運んで、自分の眼で材を確認する必要はないわけです。その場合には、守られるべき規格がちゃんと守られていることが条件になりますが、見本売買でよいということになるはずです。

 規格というのは、製材の挽き方の問題です。そして、二等品ならば何%までの丸身を許容するといった規格を守るか守らないかは、製材品を引く製材業者の問題になります。人間が挽くわけですから、ごまかして挽こうと思ったらいくらでも出来るでしょう。九本の材を梱包した時に、真中の、外からは見えないところにだけに丸身のある規格外れの悪い材を入れておくといったことも可能でしょう。けれども、悪い材を良材とゴマかして高く売ろうというのではなく、真面目に、売り方を変えることによって利益を余計に得ようとするのであれば、これだけは守らなければいかんと決めそれを実行することによって可能になるはずです。

 この頃、JAS製品の表示でなくて、日向印、尾長鳥(高知)印で行こうというところが多くなってきております。県産材の売り込みを図ろうとする気持からの過渡的な措置としては止むを得ないことでもあろうと考えられますが、折角JASがあるのですから、そこに高知土佐印、日向印という表示を付けねばならないところに、土佐や日向の問題ではなくて、JAS(木材規格)の問題があるとしなければなりません。本来、みんながJASを守っているならば、高知印も日向印も不要なはずです。しかし、JASにあきたらないものがあって○○印を付けるようになっているということは、現在のJASがいわば死体になっていることを逆に示していると言えます。現在のJASをもう一遍新らしく作り直す必要があるのではないかという問題も、ここで提起されましょう。その点については、ここでは深入りしないとして、少なくとも、規格の統一がなされ、どの製材所からの材をみても、羊かんを切っているように同じだ、土佐印のものも日向印のものも、A製材の製品もB製材の製品もみんな同じだということになってくると、見本売買で十分だということになります。

 見本売買で十分だということになれば、配列する必要がないのですから配列の費用を省略することができます。しかも、一たん配列して売買をしてから材木屋へ材を運送するというのではなく、製材所から直接市売組織を通じて材木店に材を運び込めばよいわけですから、物流の点でも大幅に効率が上がるということになります。しかも、このことによって誰も損をするわけではありません。商流を飛ばしたということでもなく、物流と商流の合理化にほかならないのです。

 そして、こうした見本売買が定着した段階において、先物取引への道もまた開けてくるでしょう。先物取引ができるようになると、いままで木材価格の上下による影響をモロにかぶっていた木材業界が価格をヘッジング(保険つなぎ)することができ、木材価格の急騰、急落のない正当な需給バランスによる価格変動のみの近代的な流通ができ上がることになります。

 「デンボ(腫物)と木材流通業は大きくなるとつぶれる」ということは過去のことになりつつあります。帳簿と現場(事務所と倉庫)の違いを縮める努力によって、大きくなってもつぶれない木材流通業ができ上がっていくでありましょう。人間改造、より能率給的給料システム、日々現場をつかめるコンピュータシステムの導入、木材規格の統一化、建築業者の場当たり的発注から集約された搬送の効率化、建築下請大工の請負単価の細分化(坪いくら的請負でなく項目的価格分析)、木材流通のバイパス化、合板先物取引の法制化による価格のヘッジングなどが、一層頭と足元の差をなくすことに役立ってきます。また、木材流通業者自らも木材販売士制度を設け、少なくとも全国一〇数ヵ所で初級・中級・上級試験を実施して木材流通業社員の資質の向上を図らなければならないでありましょう

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