西郷隆盛と江戸城明け渡しの話をした勝海舟の『語録』の中に、つぎのような言葉があります。 「こと未だ成らず 小心翼々 こと将にならんとす 大胆不敵 こと巳になる 油断大敵」
まず、「こと未だ成らず」、つまりこれから研究開発をしてゆこうという段階や、まだ成案に達していない予備調査の段階においては、「小心翼々」でなければならない、と言われているわけです。緻密にデーターを集めて、マーケットリサーチを充分にやらなければならない。次に、「こと将にならんとす 大胆不敵」とは、事前調査も済んでさあこれからやろうとする時には、大胆不敵にやりなさい、もう研究も充分に進んでいるし、石橋を叩いて成果が出たのだから、橋を大胆に渡りなさい、ということです。そして、「こと巳になる 油断大敵」、出来上がってしまったら、油断しては駄目ですよ、ということです。
私たちは往々にして、「こと未だ成らず 大胆不敵/こと将にならんとす 小心翼々」というようになりかねません。計画段階においては、石橋を叩いて渡らなければならないのに、きわめて大胆不敵に、マーケットリサーチも充分にやらないで、とにかくやろうやろうとしゃにむに走り出して失敗をする。逆に、出来上がってしまうと、油断大敵でなくて大胆不敵になってしまう人が多い。この勝海舟の言葉は、実に味わい深い言葉ではないでしょうか。