木材流通とは

木材流通とは

はじめに――流通は川の流れと同じである

 木材の流通に限らず、流通問題を取り上げるときに、先ず最初に考えなければならないことは、「流通は刻一刻と変化してゆくものである」、したがって「今日の主流である流通経路および手法は、明日の主流とは限らない」ということです。川の流れは、大水が出るたびに年に何回か変わり、そのたびに淵の在り場所も瀬の場所も変わってしまいます。きのうまで魚が釣れていた所が、今日は単なる水溜りになってしまっていて、魚はいなくなっている、ということが往々にしてあります。それを知らずに釣り糸を吊れてみても無駄だ、ということです。 つまり、流通というものは、川の流れとまったく同じで、大水が出て、いままで右岸を走っていた川が左岸を流れるようになると、右岸は溜め池になってしまって、そこに釣りに行っても魚が獲れるといういままでの考え方が通用しなくなってしまうのです。いままではいつでもそこで釣りをしていたら魚が獲れていたのが――と言うことは、いままでそこに材木を売りに行っていたら商売になっていたのが、いつの間にか木材の流れや経済の基調が向こう岸に行ってしまっていて――、こちらで釣り糸を吊れていても、魚は全然獲れなくなってしまっている。それでも、「今日は釣れんなぁ、今日は釣れんなぁ」と思いながら釣り糸を吊れているうちに日にちがだんだんたってしまって、結局、向こう側で魚が大漁に獲れていることを少しも知らなかった、というようなことがしばしば生じるのが流通なのです。 だから、いま、材木が「売れない、売れない」と思っている人は、溜池で魚を釣っているのと同じではないか。向こう岸に川の流れがあるのを知らない人がいるのではないだろうか。しかも、向こう岸で材木を釣っているのが材木屋でなくて金物屋であったりスーパーであったりというように、全く異業種の人が材木を釣っているということだってあるわけです。いままでよりも一〇倍くらいの早さで経済のテンポが変わっている状況の中で、そこらを考えることが、木材流通を考えるときの基本であろうと思います。 また、一〇年くらい前、私が北海道の網走から大阪に落葉松を買付けしていたときに、北海道から東京へ材を運ぶ海上運賃よりも、大阪へ運ぶ海上運賃の方が安いということがありました。距離からいうと、北海道から東京への距離よりも大阪への距離の方が倍くらいあるのですから、この運賃の在り方は普通の考え方からするとおかしな話なので、私は「いま私が北海道の落葉松を開拓して、どんどん大阪へ持ってきてるけど、いろんなことを教えてあげたら、すぐにあんた方は東京へ持って行くのと違うか」という話をしたわけですが、すると、「いや、そうじゃあないんです。東京の方が運賃が高くつくんです」という返事でした。「それはなんで」と聞くと、「帰り船はまた大阪に行って帰り荷を積んでこなぁいかんのです。だから東京湾に入るだけ値段が高くつくのです。」という説明でした。その話を聞いて、「そりゃあそうやなぁ、船運賃というのは、往復の荷物をかけなければ安くならないのだから、そのためにカラで東京から大阪まで走ってきて、大阪で荷物を積んで北海道に帰るのであれば、ずっと荷物を積んできて寄り道をしない大阪への運賃の方が安くなるわけやなぁ、これが流通の面白いところやなぁ」と思ったわけです。沢山あるところのものを買って、ないところへ持ってゆくというのが流通であり、そこに"物流"と"商流"とがくっついているということになるのですけれど――その詳細はのちほど述べることとして――、この場合のように、常識的には北海道から東京への運賃の方が、大阪へのそれよりも当然安いはずなのに、現実には北海道から大阪へ持ってくる運賃の方が安いということがあるという事実が、木材流通の面白さであると言えます。だから、それぞれの才覚でどうにでもなるということです。 したがって、流通において今日の理想的な方法は、明日の理想的な方法とは言えない。だから、木材流通論というものは、永久不変なものではない、と言えます。しかし、根底に流れている思想とか考え方だとか基礎になる事象は同じであるだろうから、木材の流通にたずさわる人、また、これから木材流通業に入って来られる方たちに少しでもお役に立てば幸いだと、この一冊をまとめることにしました。 流通とは、日々刻々変化してゆくものですから、流通に関する本は、現実の激しい動きに合わせて毎年書き変えなければならないくらいのもだと考えています。木材だとか繊維だとかに限定しない、グローバルな流通の本ならば出ているけれど、木材に関する流通の専門書が出ていないという原因も、そこにあるだろうと思います。事実、私が三重大学農学部で二二年間、木材流通の講義をしていたときも、講義用のノートは毎年書き変えていたという経験がありましたから、いままで木材流通の本を出すことを躊躇していたわけです。しかし、そんなことを考えていたのでは一歩も踏み出せないので、二年に一遍でも書き変えるくらいのことを考えて、まず最初に一冊出し、それからいろいろ書き直してゆくのがいいのではないかと思って、この本をとりまとめることにしました。ここでは、木材流通について、広く浅く説明してゆくことになると思うので、深く勉強したい人は、本書の巻末に掲げておいた、木材の専門書を読んでいただきたいと思います。では、本論に入ってゆくことにしましょう。

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